FRBに「トランプ派」続々 元実業家を理事に指名へ
【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領は4日、米連邦準備理事会(FRB)理事に元実業家のハーマン・ケイン氏を指名する方針を明らかにした。ケイン氏はトランプ氏の政治資金団体を立ち上げた有力支援者で、利上げにも反対している。トランプ氏は自らに近い保守系評論家のスティーブン・ムーア氏も理事に指名する考えで、金融緩和を求めて人事面でFRBに圧力をかける。
トランプ氏が4日、ホワイトハウスで記者団に「ケイン氏は非常に優れた人物だ」などと述べ、同氏をFRB理事に指名する方針を明らかにした。ケイン氏はピザチェーンの元経営者で、2012年の大統領選に共和党から立候補すると表明したこともある。トランプ氏を支援する政治資金団体を立ち上げるなど、同大統領と極めて近い関係にある。
ケイン氏はカンザスシティー連銀の幹部ポストを務めた経歴もあり、今年2月に「インフレではなくデフレを警戒する局面だ」とFRBの利上げに強い反対姿勢を示したことがある。12年の大統領選出馬時には個人、企業とも所得税率を9%に下げる「超大型減税」を表明して支持を集めるなど、小さな政府を求める保守派の代表格だ。
トランプ氏は3月下旬に、保守系シンクタンクに所属するスティーブン・ムーア氏もFRB理事に指名すると表明している。ムーア氏は16年の大統領選で大型減税を立案するなどトランプ氏の知恵袋の一人だ。金融政策でもFRBの利上げを批判するなど、トランプ氏と足並みをそろえる。
FRBは正副議長を含めて理事ポストが7つあり、現在も2つが空席だ。トランプ氏は現執行部のパウエル議長やクラリダ副議長らを自ら指名したものの、個人的な関係が深いわけではない。18年9月にはFRB元高官のネリー・リャン氏を指名(19年1月に指名辞退)するなど「理事の人選にはFRBの意向が強く反映されてきた」(FRB幹部)とされる。
ただ、トランプ氏は株価が下落する中で利上げを続けたFRBを「常軌を逸している」と厳しく批判。側近のクドロー国家経済会議(NEC)委員長を通じて「0.5%の利下げ」も要求し始めた。トランプ氏が自らに近いケイン氏やムーア氏の起用を検討するのは、低金利政策を求める自らの主張を金融政策に直接反映する狙いがある。
もっとも、ケイン氏は自らの不倫疑惑やセクハラ疑惑で12年の大統領選を撤退し、ムーア氏も税金未納が報じられるなど早くもスキャンダルに見舞われる。そのためホワイトハウスは両氏の人事を正式に決定しておらず、人事の承認権を持つ上院が賛成するかも見通しにくい。
金融政策の判断に政治からの独立が求められてきたFRBに、大統領に極めて近い人材が次々送り込まれれば極めて異例なことになる。歴代の共和党政権に近い米ハーバード大のグレゴリー・マンキュー教授も「ムーア氏には知的な威厳がなく上院は承認すべきでない」と手厳しく批判する。