平成から令和へ 1カ月前の新元号公表、見えた課題
国民の注目を集めてきた新元号が「令和」と決まり、日本列島が沸いた。天皇陛下の代替わりの日程が決まってから1年4カ月。新元号公表を巡っては、1カ月という周知期間の適否、選定過程の透明性確保などの課題も浮かび上がった。
新元号「令和」の出典は日本最古の歌集「万葉集」に漢文で書かれた序文。元号の漢字を中国の古典(漢籍)ではなく、日本の古典(国書)から引用したのは確認できる限り初めてだ。
政府関係者は「出典をこれまで通り漢籍に限れば使い古された印象を与えかねない」と指摘。「斬新さを出すためにも国書から選ぶのは妥当だ」と評価する。
一方で、新元号の選定過程が不透明だとの指摘もある。政府は有識者からなる元号に関する懇談会などに示した候補の数や「令和」を除く他の案を公式に明らかにしていない。考案者名も非公表のままだ。
今回の選定過程は公文書として残すが、安倍晋三首相は基本的に30年間は文書を非公開にする考えを示している。
菅義偉官房長官は2日の記者会見で「情報公開制度にのっとって適切に対応していく」と強調。選定過程が不透明ではないかと問われると「そうした批判は当たらない」と語った。
NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「改元は日常生活に大きな影響を与える。考案者までは出せなくても、どこの手続きであれば出しても問題ないのかを厳密に検討し、なるべく情報を公開すべきだ」と指摘する。
政府は改元に伴うシステムの改修や印刷業者の準備など国民生活への影響に配慮し、新元号の周知期間を設けることを検討してきた。
当初、政府内には「少なくとも半年程度は必要」との見方もあったが、2017年6月に特例法が成立したころには「1~2カ月ほど前の公表でも日常生活や経済活動への影響はほとんどない」(政府高官)との意見が広がっていた。結果的に新元号の公表は4月1日、周知期間は1カ月となった。
文書の日付データに和暦を利用することが多い地方自治体は現在、システムの更新作業に追われれている。
日本マイクロソフトは「対応の必要性が認知されていない恐れがある」と懸念。個人や小規模企業向けに基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」を新元号に対応させる設定手順を紹介するサイトを2日に開設した。
代替わりの日程自体は17年12月に決定しており、今のところ民間から大きな不満は出ていない。
トッパン・フォームズは一部の印刷物を、元号部分を除いて前倒しで作製するなどして対応。大日本印刷は、前の改元時と比べると西暦を使う出版物や書類が増えたこともあり「特に大きな影響はない」としている。
周知期間が十分だったかどうか。その結論は、これから1カ月間の社会の動向によっても左右されそうだ。
天皇陛下が退位の意向を示唆されたのは16年8月。高齢による衰えで「全身全霊で」公務を行うことができなくなる、という理由だった。
今回の改元の前提となった退位は、陛下一代限りの特例法によって実現する。新天皇となる皇太子さまには適用されず、皇位継承を天皇の死去に限定する皇室典範の規定が当てはめられることになる。
皇太子さまは陛下の姿勢を受け継ぎ、国民と積極的に触れ合う活動的な象徴天皇となる意向を示されている。即位時点の年齢は59歳。数十年後、年齢的な衰えが表れたとき今回と同じ問題に直面する可能性は低くない。
さらに特例法は付帯決議として、安定的な皇位継承のための諸課題などについて速やかに検討すると明記した。
静岡福祉大の小田部雄次名誉教授(日本近現代史)は「新元号の公表に沸くだけでなく、皇位継承の永続性という本質的な問題を長期的な視野で考えるべきだ」と指摘している。