大阪、京都に負けぬ都市文化 谷直樹さん(もっと関西)
私のかんさい 大阪くらしの今昔館館長
■外国人観光客の人気を集め、大阪を代表する観光スポットとなっている「大阪市立住まいのミュージアム 大阪くらしの今昔館」(大阪市北区)。2017年度の入館者数は約59万人に上った。館内に江戸期の大坂の町並みを実寸大で再現し、四季折々の上方の暮らしを体感してもらうユニークな展示は、館長自ら企画設計した。
展示してある町家は模型ではなく、江戸期の伝統工法で建てた「実物」。きれいに新築した後、映画会社の美術監督に頼んで汚したり少し壊したり、生活感が出るよう手を加えた。
照明と音を45分ごとに変えて朝昼晩を演出し、町の違う顔を見せている。正月やひな飾り、天神祭など季節ごとに町家のしつらいを替え、ボランティアの手で餅つきや折り紙など多彩なイベントを催す。館内は写真撮影可で、原則として展示物に触れてもOK。町の風情とにぎわいを感じてもらい、好奇心を満足してもらえるよう工夫している。
■来館する外国人が増え始めたのは10年ごろ。マンガやアニメなどで目にした日本の暮らしに触れられる、との情報がインターネットで拡散し、年間15万人ほどだった入館者は約4倍に急増した。
きっかけの一つは「着物で町並みを歩いてもらおう」とのボランティアのアイデアで08年に始めた着物体験コーナー。外国人向けというわけではなかったが、最初に韓国の若者の間で評判となり広く注目されるようになった。
もう一つは同年に始めた海外からの留学生らを招いた居住体験プログラム。彼らの多くは寮で生活し、日本人の暮らしに接しないまま帰国する。「せっかく来日したのにもったいない」と大阪教育大や大阪市立大と組んで今昔館や市内の町家を活用したところ、彼らが情報発信してくれた。
日本や大阪独自の文化を世界にアピールするのもよいだろう。ただ東アジアの人々には東アジア共通の文化、彼らの国にもあるモノや行事を「日本ではこうだよ」と紹介したほうが興味を持ってもらえ、相互理解が深まる。
■専門は建築史や居住環境学。並行して博物館づくりに取り組んできた。今昔館は4つめの作品だ。
もともとは仏像好きで、高校で地歴部に入った。顧問の先生の提案で多宝塔の模型を2年がかりで作ったのを機に、古建築に関心を持った。部の見学会で訪ねた浄土寺浄土堂(兵庫県小野市)で、堂内に西日が差し込む演出に魅了された。
京都市史編さん事業を手伝っていた大学院生の時、歴史学者の林屋辰三郎先生から堺市博物館の設立準備を手伝うよう言われ、中世の堺の街を目の当たりにできる展示づくりに取り組んだ。大阪市立大に移り、研究の傍ら月桂冠の企業博物館「大倉記念館」(京都市)などを企画、設計した。
今昔館建設の端緒は大阪市が始めた都市住宅史の調査だった。1989年に書籍にまとめたところ、より広く知ってほしいと博物館構想が持ち上がり、約10年がかりで実現した。実寸大の町並み再現や常設展示に力を入れる方針は、堺市博物館以来の経験が生きた。
■大阪は成熟した都市文化を持ちながら享受できていない、と気をもむ。
京都の暮らしの文化は内外から注目を集める。それに比肩するものを大阪は蓄積しているのに評価されない。住民自身が大阪を歴史都市とみていないためだ。世界中の都市が積み上げた社会資産を売り物にする中、大阪も適正に自己評価しないと根無し草になる。
大阪では商家の人々が住まいを芦屋など周辺に移し、街を仕事に徹する場としたため、かつて船場などで培われた生活文化が空洞化した。だが最近は都心回帰が進む。市民や、これから住もうとする若い層こそぜひ一度来館し、街の暮らしの文化と歴史を知ってほしい。博物館は、都市住民がアイデンティティーを築くための仕掛けの一つだ。
(聞き手は編集委員 竹内義治)
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