球場改修に長打力補強 ロッテ、待望の本塁打王は?
編集委員 篠山正幸
打った瞬間、柵越えを確信した打者が、ゆっくりとベースを周り始める――。もっともプロ野球らしいシーンの一つだろう。そういう場面をなかなか目にできなかったロッテの本拠地、ZOZOマリンスタジアムの様相が変わるかもしれない。今年こそは本塁打王を、との期待もわく。
「打った瞬間、歩きたいが、歩けない。入ったと思ったのが風で戻されるのを見ちゃったら、絶対走らざるをえない」。5年目の昨年、24本塁打と長距離砲としての才能を開花させた井上晴哉のぼやきを思い出す。今年1月、自主トレを公開し、今季にかける意気込みを語ったときのことだった。
■外野フェンスを最大4メートル前へ
パワー自慢の打者たちをも悩ませてきたのが、ときにはスコアボード上のこいのぼりのヒモがちぎれてどこかへ飛んでいき、まれにだが、中止を余儀なくされることもあるマリンスタジアムの風の強さだった。打球が押し戻されることもあれば、スタンドの構造の関係か何かで、案外伸びることもあり、その風向きはとらえどころがない。
手応えは十分で、他の球場ならゆっくり走り出せるような打球でも油断できない。「何本か去年もあった。(本当なら)歩けるヤツが」と井上。
割りを食ってきた打者たちの救いになるかもしれないのが、外野フェンスを最大で4メートル前に引き出した今オフの球場改修だ。従来のフェンスの手前に「ホームランラグーン」という臨場感を高めた観覧席を新設した。形状は違うが、本塁打増に結びついたとされるヤフオクドームの「ホームランテラス」をイメージすればいいかもしれない。
3月29日の開幕戦で、楽天のゼラス・ウィーラーがラグーン席のフェンスに当たってスタンドに飛び込む本塁打を放ち、早速改修効果を示した。
ロッテ投手陣がその「狭さ」を過剰に意識し、四球を連発。「慎重になりすぎている」と井口資仁監督を嘆かせる副作用も出ているが、打者にはありがたい改修であるのは確かだろう。
開幕3連戦では影を潜めていた名物の強風も、やがては吹き始めるはず。ということを考えると、いかにいい当たりでも、安心して歩きだせる、ということにはならないだろうが。
ロッテは阪神とともに、最も長く本塁打王が出ていない球団だ。阪神は1986年ランディ・バース、ロッテは同じく86年の落合博満以来、キングに輝いた打者はいない。
この間、阪神はリーグ優勝があり、ロッテも日本一になっている。優勝という大目標に比べたら、個人タイトルなど取るに足らないかもしれないが、プロ野球の華である本塁打部門でアピールできる要素を欠いてきたことには一抹の寂しさがあった。
■レアード、バルガス…実績は十分
ロッテは92年に川崎球場から千葉マリンスタジアム(当時)に移転して以降、本塁打部門は望み薄の状況になった。93年、メル・ホールが30本でリーグ3位、95年に初芝清が25本で同じく3位になったのが最高成績。昨季までの10年に限れば、2016年にアルフレド・デスパイネが24本で6位になったのが最高だ。
そうした冬の時代が、今季、終わるかもしれない。球場改修で舞台が整ったのとともに、役者もそろったからだ。
球団は積年の課題だった長打力に補強の焦点を絞り、日本ハム時代の16年に39本でキングとなったブランドン・レアードと、メジャー通算35本塁打のケニス・バルガスを獲得した。レアードは開幕3連戦で3連発の好スタートを切った。バルガスはオープン戦で巨人・菅野智之から右翼の看板直撃の特大弾を放ち、日本の野球に慣れさえすれば、というだけの地力があることは証明済み。
もう一人、主役になってもらわなければならない井上はオープン戦からの不調を引きずって公式戦に入ったが、勝負は始まったばかり。先を占うには早すぎる。
世界の本塁打王、王貞治・ソフトバンク球団会長は本塁打の魅力をこう書いている。
「夜空に白球がポーンと舞い上がり、スタンドのお客さんの列がさっと割れて球が落ち、時間が止まる。敵も味方も何もできない空間となったダイヤモンドを一人回る……」(「私の履歴書『もっと遠くへ』」)
ロッテは長年の営業努力が実り、昨季、観客動員の新記録をマークした。お客で埋まるスタンドという舞台は整った。あとはその列を割るアーチがかかるのを待つばかりだ。