サウジアラムコ、7.6兆円で石化大手買収 皇太子の「脱石油」改革で資金捻出
【ドバイ=岐部秀光】サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは27日、同国の政府系ファンドが持つ石油化学大手サウジ基礎産業公社(SABIC)の株式の70%を691億ドル(約7兆6千億円)で買い取ることで正式に合意したと発表した。実力者のムハンマド皇太子が進める経済改革のための資金を捻出するねらい。「脱石油」改革でアラムコが中心的な役割を果たすことが一段と鮮明になる。
アラムコの会長でもあるファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は「歴史的な合意だ」と持ち上げた。政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)のルマイヤン総裁は「(アラムコとSABIC、PIF3者の)ウィン・ウィン・ウィンの合意」と述べた。
サウジが石油の販売収入だけに頼らない経済をつくるための改革は、その柱と位置づけていたアラムコの内外市場での新規株式公開(IPO)が棚上げを強いられた。ニューヨークやロンドンの取引所が求めるきびしい情報開示ルールに従うことがむずかしく、法的リスクの大きさも明らかになったためだ。2018年10月にサウジ人著名記者が殺される事件が発覚し、IPO実現は一段と難しくなった。
このため政府は、PIFが持つSABIC株式をアラムコに売ることで必要な資金を手当てする。アラムコは買い入れの資金を確保するため、近く債券を発行する。銀行からの新規借り入れの交渉も進めているもようだ。「早期にIPOができなくなっても、サウジの改革がアラムコ頼みという状況は変わらない」と湾岸の金融関係者は指摘する。
アラムコはSABICを傘下に収めることで、総合的な石油化学企業への脱皮を急ぐ。将来のIPOだけでなく、有利な条件で債券を発行するうえでも企業の価値を引き上げる必要がある。付加価値が高い下流部門の強化により新しく雇用をつくりだし、国家が進める改革のモデルになろうとしている面もある。
世界最大の石油輸出国であるサウジの改革の成否は地域の政治だけでなく、世界のエネルギー市場の安定にとっても重要な意味がある。だが、記者殺害事件や皇太子の強権的な政治手法から、外国の投資家や企業のサウジ離れも進んでいる。
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