新NAFTA批准、カナダも膠着 追加関税に反発強く
【ワシントン=鳳山太成、ニューヨーク=高橋そら】北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定の先行きが不透明になってきた。「ねじれ議会」の米国に加え、カナダでも批准作業が行き詰まっている。米政権が続ける鉄鋼・アルミニウム関税への反発が強いほか、政権・与党の支持率が低いためだ。自動車など日本企業は北米投資で難しい判断を迫られそうだ。
「関税をかけられたまま、カナダが新NAFTAの批准を進めるのは筋が通らない」。カナダのフリーランド外相は25日に米ワシントンで記者団に不満を表した。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表と会談し、まずカナダに対する鉄鋼・アルミの追加関税を速やかに解除するよう改めて求めた。
米政権は関税をNAFTA再交渉で譲歩を迫る材料に使ってきた。カナダからみれば妥結から半年が過ぎても輸入制限が続くことに不満が強い。米国は鉄鋼・アルミいずれも輸出の8~9割を占める最大市場で、年32億ドル(約3500億円)相当の損失に上るとの試算もある。米国は代わりに輸入数量枠を求めているがカナダは拒否し、協議は平行線のままだ。
カナダ議会では新協定USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に署名したトルドー政権と与党・自由党が失速している。2月に首相が建設会社の司法手続きに介入した疑惑が発覚し、閣僚2人が辞任した。現地調査機関によると、トルドー氏の支持率は29%。18年12月に比べ10ポイント下がった。交渉結果を批判する野党・保守党の党首が初めてトルドー氏を支持率で上回った。政党別支持率でも与党は劣勢だ。
トルドー政権が関税問題や疑惑対応に追われるうちに政治日程が窮屈になっている。10月に総選挙を控える下院の会期は6月まで。単独過半数を握る与党は批准を強行できるが、ほかの重要法案も抱えており「立法日数が残り少ない」(カー国際貿易多様化相)。
新協定の承認に必要な実施法案はまだ議会に提出されておらず、10月以降の新議会に採決を先送りする可能性もある。選挙で与党が議席を減らせばハードルは一段と上がる。自動車の輸入制限を取り入れるなど管理貿易の側面が強い新協定はもともと「現NAFTAの方がありがたいというのが本音。米国より先には批准しない」(カナダ政府関係者)との声がある。
米議会は批准のメドが立っていない。トランプ大統領は3月26日、ホワイトハウスに与党・共和党の下院議員を呼んで新協定への支持を呼びかけた。だが下院で過半数を握る野党・民主党が労働や環境の分野で協定文の修正を求めている。
メキシコも時間がかかっている。新協定の批准には労働者の権利を強める労働改革法案を成立させることが前提条件だが、産業界が反対している。同国も「鉄鋼・アルミ関税が続く限り批准しない」としてカナダと足並みをそろえている。
自動車の関税をゼロにする条件が厳しくなる新協定の発効をにらみ、トヨタ自動車など企業は対応を始めている。ただ、発効時期が見えにくくなり産業界からは「今後の対応が非常に難しい」(USMCAを支持する全米商工会議所幹部)と懸念の声が増えている。