知財訴訟、アップルの経営リスクに 米ITC判事が輸入禁止を勧告
【シリコンバレー=白石武志】知的財産を巡る米半導体大手クアルコムとの法廷闘争が米アップルの新たな経営リスクとなりつつある。米国際貿易委員会(ITC)は26日、アップルによる特許侵害を認定、同社製品の一部で輸入禁止を勧告する内容の報告書を公表した。次世代通信規格「5G」の製品開発でも影響力を持つクアルコムとの対立はアップルの将来を見通しにくくしている。
今回、問題になったのはアップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」の幅広い機種で使われている省電力技術だ。クアルコムによると、同技術に関連する複数の特許をアップルが権利侵害しているとして、製造地から米国への輸入を禁止するようITCなどに申し立てた。ITCは米国の特許を侵害する製品の輸入を阻止する権限を持つ。
ITCで調査を担当したマクナマラ判事は報告書の中で、クアルコムの主張の一部を認定した。同判事はクアルコムの申し立てに沿ってアップルの一部の製品の米国への輸入を禁じるよう命じるべきだと勧告した。
実際にiPhoneの米国への輸入を止めるかどうかは、勧告を受け取ったITCの審査を経て7月までに正式決定する見通し。
アップルにとって米国は最重要市場だが、輸入禁止の対象が旧機種に限られた場合は影響が限定的になるとみられる。
長年のiPhone開発のパートナーだったクアルコムとの法廷闘争はもともと、アップルが仕掛けたものだ。同社は17年1月にクアルコムの特許使用料の設定が不当に高いとして提訴。以来、米国外でも知財侵害などを主張する訴訟を繰り広げている。
両社の対立は事業面にも及んでいる。アップルはクアルコム1社から調達していた通信用半導体を、16年発売の「iPhone7」から同社と米インテルの2社調達に変更。18年に発売した最新の3機種ではクアルコムを調達先から外した。
ただ、自動車などあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の通信基盤になり、産業の仕組みを大きく変えると期待される5Gの規格策定を主導してきたのはクアルコムだ。同社からの通信用半導体の調達を打ち切ったアップルは今もiPhoneの5G対応時期を明言しておらず、19年中に5Gスマホを発売する中韓メーカーに出遅れる見通しだ。
4月にはアップルがクアルコムを相手に17年に起こした特許使用料を巡る民事訴訟について、米カリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁で審理が始まる。5G開始という通信ビジネスの転換点を前に、両社の泥沼の法廷闘争の出口はまだ見えない。