米民主党、対トランプ戦略練り直し しぼむ弾劾論
【ワシントン=永沢毅】米民主党が対トランプ政権の戦略練り直しに動き始めた。ロシア疑惑で司法省がトランプ大統領を不問に付したことで党内でトランプ氏への弾劾論がしぼみ、政策論議に軸足を移す機運が高まっている。疑惑追及で政権を追い詰める手法では、2020年の大統領選に向けた展望が開けないとの見方が強まってきた。
「弾劾はもはや私たちが扱う課題ではない」。弾劾論の急先鋒(せんぽう)だった民主党のウォーターズ下院議員は26日、記者団にこう語った。米メディアによると、リベラル系の下院議員がトランプ氏の弾劾を視野に政権への追及を強化すべきだとする決議案の採択に動いているが、党内に賛同者は少ないという。
バー司法長官が24日に公表したロシア疑惑の捜査報告書概要によると、モラー特別検察官はトランプ氏陣営とロシアとの共謀を認定しなかった。民主党は共謀疑惑をトランプ氏の弾劾につながる最大の攻撃材料と位置づけてきただけに、当てが外れた形だ。
ペロシ下院議長(民主)は3月中旬の米メディアのインタビューで、超党派の賛成が得られない限り、弾劾に動くべきではないとの見解を示していた。今回の報告書概要で、共和党から賛同者が得られるメドは立ちにくくなった。
民主党は疑惑は残っているとして真相解明に向け、モラー氏による捜査報告書の全容を4月2日までに公開するよう要求している。米メディアによると、司法省は機密情報を除いたうえで、報告書の詳細を数週間以内に公開する見通し。民主党がここで新たな追及材料を手にする可能性はあるとはいえ、トランプ氏をいったん「シロ」とした結論の骨格を覆すのは難しい。
ペロシ氏は26日、民主党の会合で「医療や雇用などの政策論議に焦点を当てるべきだ」と呼びかけたという。27日にはその一環として、男女間の賃金格差の解消をめざす法案を下院で採決する。
ペロシ氏の発言は当面、政策提言に力を入れる意向を示したものといえる。ロシア疑惑の捜査を始めた米連邦捜査局(FBI)や民主への調査を検討している共和党の機先を制し、追及合戦に陥る泥仕合を避けようという狙いだ。
司法省は25日、医療保険制度改革法(オバマケア)を廃止すべきだとの見解を公表し、一部の存続を事実上容認していた従来の主張を翻した。民主党内には、オバマケアの存続を20年大統領選に向けた争点にすべきだとの声があがる。
「彼らが弾劾の話をしているとは思わない。共謀や司法妨害はなかったのだから」。トランプ氏は26日、記者団にこう語る余裕をみせた。モラー氏の報告書を受け、米政局の構図は一変した。その後の主導権争いが早くも熱を帯びている。