胸が高鳴る瞬間 競馬彩るファンファーレ
競馬場でファンファーレが鳴る。全ての競馬ファンが心を一つにする瞬間である。そうした競馬を盛り上げる「スパイス」として欠かせないファンファーレが、今回の主役だ。
取材したのは、「大井競馬場の顔」として活躍する「東京トゥインクルファンファーレ」のみなさん。2018年は京都競馬場で開催された地方競馬のビッグイベント、JBC競走で演奏した。いまや大井に限らず、全国で広く活躍している。今回は東京トゥインクルファンファーレ結成の秘話や苦労話、やりがいなどについて聞いた。
そもそもどのようにして「東京トゥインクルファンファーレ」のメンバーになったのか。トランペット担当りっちゃんは、「ある朝起きて枕元をみたら、うまたせ君(自称イケメン王子、TCKのキャラクター)からのお手紙が届いていたんです。どきどきしながら手紙を開けるとそこには『今日からあなたを東京トゥインクルファンファーレの一員に任命します』と書かれていました。それでメンバーになりました」と、予想だにしない答えが返ってきた。あっけにとられていると、りっちゃんは続けて「あの、うまたせ君からお手紙をもらえると思っていなかったので、うれしくて光栄でしたし、夢なのではと思ってしまいました。はるか昔、前世から、うまたせ君と私はつながってたのかなって思います」。なんともファンシーな回答だ。ほかのメンバーをみても、りっちゃんの回答にうなずいていたので、どうやら本当の話のようだ。気を取り直して、次の質問にいこう。
■屋外演奏ならではの苦労も
東京トゥインクルファンファーレの演奏は、いつも屋外で行われる。暑さ寒さなど過酷な環境のときもあり、やはり苦労が多いという答えが多くのメンバーから聞かれた。なかでもサックス担当のみさきさんは、困った表情を浮かべて「雨が一番大変なんですよ」と訴えた。どうやらサックスには、雨にとても弱い部品があるらしく、ぬれてしまうと使えなくなるため、雨にぬれるたびに修理に出さなくてはならない。だから修理に出すたびに、次の開催のときまでに楽器が直るか、毎回ヒヤヒヤしているとのことだった。特にみさきさんの使用するサックスは、ビンテージの楽器を使っているため、「替えの部品を探すのもひと苦労だし、修理費用もかさんで大変なんです。だから、いつも開催のときは、てるてる坊主をつくってお祈りしてます」。もしかするとみさきさんは、日本で一番多くてるてる坊主をつくっているかもしれない。
ファンファーレというと、レースの始まりを告げる大事なものであり、失敗が許されない一発勝負。もちろんプレッシャーも大きいようで、トランペット担当のかずねさんは「緊張感が大きくて、どうしようと感じてしまうこともあります。そんなときはお客さんをじゃがいもだと思うようにしたり深呼吸をしたりして、練習をしてきた自分を信じます」。大勢の目の前で生演奏する緊張感は、筆者にも容易に想像することができる。だからこそやりがいも多いそうで、かずねさんは「大事なレースの直前だから、絶対にミスはできないという緊張感はありますが、その分バシッと演奏できたときの爽快感は何物にも変え難く、やっていてよかったと思う瞬間です。多いときには数万人のお客さんが来てくださります。その目の前で演奏して大きな拍手をいただけると、とてもうれしいですね」と、ひときわ大きな声で話した。そう話すかずねさんの目は輝いていた。
さて、取材当日は写真撮影などもあったようで、メンバー全員が新年度から着用する衣装をまとっていた。新年度の衣装の特徴をトロンボーン担当のちなみさんに聞くと、「毎年衣装が変わっていますが、今年は初のネクタイ、初のシャツ、初の重ね着のベストということで、『初ものづくし』が衣装の見どころです。昨年もかわいらしい衣装でしたが、今年は昨年を上回る、さらにかわいらしい衣装なので、テンションが上がります」。東京トゥインクルファンファーレファンのみなさんには、新年度からの衣装にぜひ、期待していただきたい。
そして締めの言葉は、トランペット担当のレイチェルさんにいただいた。「ファンのみなさま、いつも応援していただき、ありがとうございます。夏は暑く、冬は寒く、また雨や風が強かったりする日に、外で演奏することはつらいこともときにありますが、ファンの皆さんの温かい声援で頑張ることができています。ぜひ、これからも東京トゥインクルファンファーレの応援をよろしくお願いいたします」。さすが、イベントなどでMCを担当していることを感じさせる、レイチェルさんのシンプルで思いが伝わってくる言葉だった。
■実況アナウンサーとの共通点
雨の日も、風の日も、夏の暑い日も、発走を告げる合図として大井競馬を盛り上げる東京トゥインクルファンファーレ。取材して、実況アナウンサーと似ている部分が多いと感じた。特に印象に残っているのが、かずねさんの「一発勝負で失敗できない。だからこそうまくいったときにやりがいを感じる」という言葉だ。レースも結果のわからない一発勝負。我々も失敗は許されず、時にプレッシャーに押しつぶされそうになることもある。それでも、場内のファンの歓声が放送席に聞こえてくると、自分の仕事に大きなやりがいを感じる。かずねさんの一言一言に共感できることが多かった。
取材をしている間も、終始和気あいあいとしていて、東京トゥインクルファンファーレの雰囲気のよさが伝わってきた。またインタビューからもわかるように、一人ひとりのメンバーの個性が非常に豊かだ。東京トゥインクルファンファーレは知れば知るほど、きっと奥が深いに違いない。活躍の場を広げる東京トゥインクルファンファーレから、今年も目が離せない。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 小屋敷彰吾)