市場が注視する欧州と中国の接近
市場で米国経済の行方が語られるとき、外部要因として引き合いに出されるのが中国、欧州の経済不安だ。その習近平(シー・ジンピン)中国国家主席がイタリア・フランスを歴訪した。パリでは、マクロン仏大統領の呼びかけで、メルケル独首相と欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長も駆けつけ、異例のトップ会談となった。既に一帯一路の覚書に署名したイタリアは呼ばれていない。
トランプ政権のアメリカ・ファースト主義に対抗して、欧州諸国と中国の多国間経済協力が議論された。なかでもマクロン大統領が演説で「中国製造2025」という表現を用いていたことが印象的だ。米国が中国による国家的なハイテク企業育成に神経質になっているため、中国の全国人民代表大会でも米国への配慮から「中国製造2025」という表現は今年削除されたほど。トランプ政権と欧州の亀裂が透ける。習近平氏にはチャンスと映る。
欧州諸国の視点では中国マネーの導入で雇用増を期待したいところだが、中国への技術移転、情報流出リスクが払しょくされない。とはいえ、市場は政経分離だ。中国マネーを受け入れてでも企業業績が改善すれば欧州株は買いである。
例えばイタリアの大手石油・天然ガス会社であるイタリア炭化水素公社(ENI)と中国国有・中国銀行との提携で財務体質が強化されれば良しとする。ドイツ国内でも、中国からの投資案件について、政治の都ベルリンでは安全保障上のリスクがまず指摘される。しかし、経済の都フランクフルトでは、ファーウエイの「5G」入札参加も受け入れる姿勢が目立つ。
英国に至っては、2015年の習近平訪英を契機に中国製原発導入に動いている。南欧諸国では、厳しい構造改革実行という条件つきの国際通貨基金(IMF)援助よりは、当座は「物言わぬ」中国の出資のほうがマシとの短絡的見解がある。欧州金融危機のときは、中国の南欧国債買いが入れば、利回りは下がった。
イタリア連立政権の中で親中国派の極左政党「五つ星運動」支持者の声で「人間、腹が減れば、道徳心とか政治的配慮とか言っていられないもの」という発言が印象的だ。欧州が中国に対して警戒しながらも協調すれば、そこで買われるのが新興国株という発想も最近ウォール街で聞かれる。
年金基金には「政経分離」と割り切ることには抵抗感が残るが、ヘッジファンドにそうしたこだわりはない。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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