なぜ個性派消えた? 権藤・野茂両氏が対談(後編)
権藤 メジャーに挑戦した野茂が、教えてくれたことの一つが「自己管理」の大切さだった。メジャーはあまり練習しないようにみえるけれど、それは選手が自己管理を徹底しているからで、陰でやっている努力がすごいんだ、と。何もしていないようにみえても162試合を戦える、練習しなくてもこれだけできるんだっていうところに、プライドを感じたね。自己管理でいえば、思い出すのが佐々木(主浩)大魔神の話。日本にいたころ、オフにはゴルフをするくらいで何にもしなかったんだ。それで、メジャーで1年目を終えて帰ってきたときに「ゆっくり休んで、また来年頑張ってくれ」って言ったら「権藤さん、ゆっくり休んでなんかいられませんよ」って。あの佐々木がオフの間も練習をやるようになった。大魔神の口からあんな言葉が出るとはね。
野茂 それだけ体力が要るっていうのがありますよね。あとは責任感です。投手には初戦から162試合目まで登板機会があって、1年間、最後まで抑え切らないといけない。加えてプレーオフ(ポストシーズン)も、となったら、もっと抑え切らないといけない。それが選手にとってのプレッシャーみたいなものになるんです。(だれにいわれなくても)練習するようになります。
■「あこがれていたタフさ」
権藤 確かに162試合戦い続けるのは大変だものね。
野茂 僕らのときを代表するグレッグ・マダックス(ブレーブスなど)やランディ・ジョンソン(マリナーズなど)はシーズン260イニングくらい投げていました。ワールドシリーズまでいったら、そんなイニング数になります。そんなの、僕はやったことない。だからあこがれていたんです。タフさ、男としてのタフさですね。もし中6日で投げたら、260イニングなんか絶対いかないんです。彼らは中4日で、しかも七、八回まで投げる。年間35試合くらいに先発して、プレーオフまで投げ切る。それをまた何年も続けるわけでしょう。それって、男として断然格好いいですし、魅力ですよね。
権藤 日本は中6日だもんねえ。「権藤、権藤、雨、権藤」をやれってわけじゃないけれど。
野茂 高いパフォーマンスを備えて、人気もあり、そこに加えてタフであることが、アスリートとしてどんなにすばらしいことか。野手でも毎試合出て、毎試合全力プレーでやっている選手を見ると「ああ、ええ選手やな」と思うし、そこのタフさはだれにもまねできないものだと思います。
権藤 メジャーは基本的に自己管理だけれど、米国に行った当初は練習が思ったより長い、とこぼしていたこともあったよね。
野茂 思っていたより全体練習が長くて、午前中いっぱい、バント処理だったり、けん制の練習だったり、基本プレーやサインプレーの繰り返しです。最初はその意味がわからなかった。でもデトロイト(メジャー4球団目のタイガース)、ボストン(レッドソックス)と行くにつれて、ようやくわかってきたんです。ああいう基本プレーはメジャーでなくても、たとえば日本の少年野球でも、欧州で野球をやっている子でも、だれでもできることでしょう。それをメジャーなのにできないとしたらおかしいし、ましてや一番注目されるワールドシリーズなんかでミスが出たら、最悪です。野球をやっている子どもならだれでもできるようなプレーをできずに、失点してしまう。これはやっぱりプロじゃない。そういうふうに考えたときに、あの練習の意味がわかった。だから、メジャーでああいう練習をさせるんやなって。
権藤 メジャーには引き分けがなくて、日付をまたいで午前3時ぐらいまでやっていることがある。最後まで残っていたお客に、シーズンチケットをあげたとか。しゃれているよね。反対に、日本は引き分けがあるから、時間稼ぎとか、規定のイニングをみながら野球をやる。引き分け制度についてはどう思う?
■「バント、日本の野球の課題」
野茂 基本的に、引き分け試合は球場にきてくれているお客さんに失礼です。みんな、勝ち試合を見にきているんですから。ただ、引き分けには試合時間を短くするということもあるでしょう。時間短縮は五輪種目になるための課題で、3時間以内に終わらせようと、いろいろな制度を試しているわけですね。でも、そこからみると、日本の野球で一番考えなくてはいけないのはバントです。五回までバント禁止とか、それくらい思いきったルールをつくってほしいと僕は思っています。初回からランナーが出てバントして、スコアリングポジションに行く。するとどうしても初球はボールから入るとか、球数が増えて、どんどん試合が長くなります。(時間短縮の方法は)いろいろあると思うけれど、それが一番かな、と思います。五回まで1時間ちょっとでいければ、3時間以内で終わる可能性も出てくるし、テンポがいいので見ている方にとってもいいと思います。
権藤 おれもバントが嫌いだった。バントしてくれたら守っている方は助かるもんね。こっちは常に、どうやって27個のアウトを取ろうかと思ってるわけ。そこで1試合に3回バントしてくれたら、それだけで3アウト。そうしたら九回がなくて、八回までの勝負を考えればよくなる。バントを禁止したら、日本の野球も面白くなるかもね。それから、最近は野茂みたいな個性のある選手が減ってしまったねえ。
野茂 それは野球の上手な選手が多いからじゃないでしょうか。今、野球がうまくなりたいと思うと、いろんな情報が入ってくるわけですね。たとえば大谷君(翔平=エンゼルス)の(投球時の)左腕の使い方が上手だとか、ダルビッシュ君(有=カブス)の下半身の使い方が上手だとか、誰々の変化球はこうやって投げますよ、という情報がみんな入ってくる。うまくなろうと思ったら、その情報に従って投げればいいわけです。それが一番効率のいいやり方なんですから。そうなると、みんなそうなっていきますよね。
野茂 世界のプロゴルファーでとんでもない格好で打つ人はいませんよね。一番効率よくて一番コンスタントな打ち方ということになると、みんなほぼ似てくるわけです。そうしないと勝てない時代なんです。個性があったら勝てるかというと、そうじゃないし。(理想のモデルに近づくよう)究極にやらないと、飛び抜けた選手にはなれない。だからみんな目指す方向が同じになっていくんじゃないでしょうか。それでも個性的な選手が出てくるかもしれないですけれど、バッターだって王(貞治)さんみたいなフォームで全員打てるかといえば、そうじゃないですからね。
権藤 バッターは画一化されてもいい選手が出てくると思うけれど、ピッチャーは中6日で、1週間に1回投げるといったことではものすごい選手なんて出てこないですよ。せいぜい昨年、菅野(智之=巨人)が頑張って、年間8完封してるけれど、彼に続くピッチャーが出てこないもんね。
権藤 クライマックスシリーズ(CS)についてはどうかな。10ゲーム以上も離したチームが日本シリーズに出られない。こんなばかな制度はありえないと思っているんだ。
■「もっとうまく動かせる仕組み必要」
野茂 そこは詳しくわかんないですけれど、興行としていろいろ考えることがありますよね。日本野球機構も、もっと野球を広めたいとか、少年にもっとやってもらうために何かをやりたいと思っているはずです。でも各球団の試合の売り上げが基本的には球団に入るようになっていて、日本野球機構にお金が入るのは日本シリーズ、オールスター、侍ジャパンの試合といったところでしょう。それしか稼ぐ手段がないんです。
野茂 もし、もっと稼ぐ手段があれば、そのお金をたとえば社会人野球で使ってくださいとか、少年野球の代表チームで使いましょう、ということができる。そうすれば、子どもたちも社会人も「じゃあ俺たちも、それぞれの年代の侍ジャパンに入るのを目指そうか」と活気づくんじゃないでしょうか。米国がこうだから、というわけじゃないんですけれど、メジャーでは優秀な弁護士が選手会について、その指導の下で強くなった。米国では一つ権利があるとすると、それが球団、大リーグ機構、選手会に3等分されるんです。日本ももっと(野球界全体を)うまく動かせるような仕組みづくりができればなあ、と思います。そうなれば、球団も増やせるかもしれない。
権藤 CSなんかやめて、各球団が年間1試合分でいいから、収益を全部コミッショナーにあげればいいんだよな。青少年の育成や野球発展のためのお金なんだから。