アサヒ、主力高級ビール販売3割増へ 事業買収で弾み
アサヒグループホールディングス(GHD)は今後3年で、「スーパードライ」など主力の高級ビールの海外販売を現行に比べて3割増やす。16~17年に計1兆2千億円を投じて欧州事業を買収し、高級ビール路線を明確にした。買収の統合効果を深め、販売を引き上げる。世界的にビール市場が成熟して伸び悩みを見せるなか、限られた成長分野である高級品の需要を掘り起こす。
「高級ビール事業を譲ってほしい」。2018年6月、同社のM&A担当者は英国に赴き、同国でパブやホテルを手掛けるフラー・スミス&ターナー首脳と会った。フラー社がパブやホテルに集中するよう事業再編を検討する動きを把握し、買収を持ちかけたのだ。同社は英国で最も人気の高級ビールの一つ「ロンドン プライド」などを手掛けていた。
アサヒGHDは16~17年、世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)から計1兆2千億円で欧州事業を相次ぎ買収した。イタリアの「ペローニ」、チェコの「ピルスナーウルケル」を手に入れ、スーパードライとともに高級ビールとして世界で売り込みたい考えだ。
アサヒGHDはインベブから欧州事業を買収した後の統合作業(PMI)を進めている。18年12月期に本業のもうけを示す事業利益は買収が効き、前の期から13%増えて過去最高となった。ただ、ビールの世界再編が進んだなか、大型案件でさらなる成長をめざすのは困難。小路明善社長は今後は「既存の事業モデルを補完する案件を自ら探す」と強調する。インベブから買収した欧州事業と相乗効果が高いと期待されるフラー社の案件はこの考えに沿うものだった。
フラー社は、ロンドンを中心に、英国南部で380軒以上のパブやホテルを経営。現地ではパブ文化が根付く。フラー社と連携すれば、アサヒGHDが進める高級ビールの品ぞろえが増えるほか、現地の販路も広がる期待もあった。同社は約370億円を投じて買収し、スーパードライなど主力高級ビールを売ってもらう狙いだ。
M&Aはインベブから欧州事業を買収した後では初めて。欧州事業の買収後は過去に買収した事業や資産を見直し、中国ビール2位の青島ビール株などを相次ぎ売却。事業や資産の整理はほぼ一巡した。
アサヒGHDはフラー社の事業買収などで欧州事業との統合効果を引き出しながら、今後3年でスーパードライ、ペローニ、ピルスナーウルケルの主力高級ビール3ブランドの販売を4500万ケース(1ケースは大瓶20本換算、各ブランドの母国以外での販売)と現行に比べて3割増やす。欧州のほか、北米、オーストラリア、韓国、中国の都市部を中心に開拓する。
世界的に普通のビールの販売は厳しいが、高級ビールは市場のけん引役となっている。英調査会社ユーロモニターによると、「プレミアムラガー」と呼ばれる高級ビールの消費量は22年には18年から2割増え、市場全体のシェアは20.6%と2.3ポイント上がる見通し。経済の成熟国での消費は普通のビールから離れ、じっくり味わう個性的なビールに移っている。
世界のビール業界で重視される売上高に占めるEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)比率では、アサヒGHDは18年12月期には19.6%となった。買収効果で3年前から約6ポイント上がった。高級ビールの展開でお手本とするオランダの世界大手ハイネケンは同比率は23%強。近づいてはいるが、背中は遠い。高級ビール戦略を進め、追い上げる。
稼ぐ力を引き上げ、将来の成長に向けたM&Aも検討する。過去の実績にとらわれずに予算を策定する「ゼロベース予算」も導入。今後3年でゼロベース予算を含めた収益構造改革で累計300億円を超えるコスト改善効果を見込む。18年12月期にEBITDAは3185億円だが、3600億円に高まる見通し。稼ぐ力の向上で「3年後にはM&Aで9千億円の投資余力を確保できる」(小路社長)という。
(新沼大)