ロードカナロア、大種牡馬への新たな一歩
アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのメイダン競馬場で30日に行われるドバイ国際競走に今年も多くの日本調教馬が遠征する。目玉は昨年の牝馬三冠馬で、年長馬相手のジャパンカップ(G1)でも破格のレコードタイムで優勝したアーモンドアイ(牝4、美浦・国枝栄厩舎)だ。芝1800メートルのドバイ・ターフ(G1)に優勝争いの最有力馬として出走する。同馬の父、ロードカナロアにとってはこれが産駒初の海外遠征となる。ロードカナロアはアーモンドアイを筆頭に、2015年生まれの初年度産駒が大活躍し、早くもトップ種牡馬としての地位を固めつつある。今年は海外遠征に加え、牡馬クラシック路線の主役となるサートゥルナーリア(牡3、栗東・角居勝彦厩舎)を送り出す。名種牡馬の道へ新たなステップを踏み出す1年となる。
ドバイ国際競走では6つのレースに10頭の日本調教馬が出走する。なかでも遠征馬の質、量とも充実しているのが、芝2410メートルのドバイ・シーマクラシック(G1)とドバイ・ターフである。シーマクラシックには17年日本ダービー(同)の勝ち馬で、昨年の天皇賞・秋(同)も勝ったレイデオロ(牡5、美浦・藤沢和雄厩舎)など3頭が出走予定。ターフにはアーモンドアイのほかに、17年のこのレースの覇者、ヴィブロス(牝6、栗東・友道康夫厩舎)など2頭が参戦する。
■初年度産駒がG1を5勝
英国のブックメーカー(賭け屋)のオッズをみると、日本馬が有力視されていることがわかる。大手のウィリアムヒルはレイデオロに3.75倍のオッズを付けて2番人気に評価。アーモンドアイはさらに高い注目を集めており、2.25倍の1番人気である。日本調教馬は昨年、海外G1で1勝もできなかった。8年ぶりの不名誉な記録だったが、このドバイで17年4月30日のクイーンエリザベス2世カップ(香港、優勝馬はネオリアリズム)以来となる、海外G1勝利を挙げる可能性は十分にある。
最も期待されるアーモンドアイは昨年の牝馬3冠路線のレースすべてが圧巻の内容だった。初めて年長の牡馬と対戦したジャパンCでも、それまでの芝2400メートルの日本レコードを1秒5も更新する2分20秒6で走破した。能力だけなら、世界でも指折りの存在といえる。
アーモンドアイら現4歳世代が初年度産駒だったロードカナロアにとって、これが産駒初の海外遠征となる。ロードカナロア自身も4、5歳だった12、13年に香港に遠征し、世界トップクラスのスプリンターが集まる香港スプリント(G1)で連覇を飾った。特に13年は2着に5馬身差をつける圧勝。海外という異なる環境でも持てる力を存分に発揮した。その産駒も父と同様に扱いやすいという評価が多い。初めての地でのレースとなるアーモンドアイへの期待も自然と高まる。
産駒の海外での活躍は、種牡馬ロードカナロアに対する世界からの注目度、国内での評価をさらに高める大きな契機となる。これに加えて、今年は牡馬クラシックにも有力な産駒が出現した。
ロードカナロアの初年度産駒は昨年、アーモンドアイの4勝のほかにステルヴィオ(牡4、美浦・木村哲也厩舎)がマイルチャンピオンシップを勝ち、国内G1で5勝を挙げた。これは、12年から18年まで種牡馬ランキング首位に君臨するディープインパクトの初年度産駒(08年生まれ)の4勝よりも多い。ディープの初年度産駒が3歳時に取ったG1は2勝のみ。国内G1勝利数でみれば、すでにディープを上回る成績をあげていることになる。
これほど好調だったロードカナロア産駒でも、手が届かなかったのが牡馬クラシック(皐月賞、ダービー、菊花賞)だった。ステルヴィオがただ1頭、皐月賞、ダービーに出走したが、それぞれ4、8着に敗れた。
■牡馬クラシックの主役
だが、2世代目となる今年の3歳馬には春の牡馬クラシックの主役となる大物がいる。サートゥルナーリアはデビュー戦から無傷の3連勝。昨年末のG1、ホープフルステークス(中山芝2000メートル)は、スローペースで先行し、最後の直線では密集でなかなか進路が開かないなか、狭いスペースに割って入り、ほぼ馬なりで一気に突き抜けた。過去に多くのG1馬を送り出してきた角居厩舎にあって、「なかなかこういう馬には出合えないという身体能力の持ち主」(辻野泰之調教助手)と素質を高く評価されている。同馬は前哨戦に出走しない異例の臨戦過程で4月14日の皐月賞に向かう。「不安がないといえばうそになるが、休養明けでもそれを帳消しにできる潜在能力がある」(同)という。
ロードカナロア自身が短距離で活躍したため、サートゥルナーリアにも距離の壁があるのではないかとの不安も指摘される。だが、ロードカナロア産駒の成績をみると、多彩な距離で結果を残していることがわかる。
産駒が勝ったレースの平均距離は1461.1メートル。しかし、2000メートル以上のレース(障害除く)の連対率は20.6%を記録する。さすがに1000~1600メートルの25.6%は下回るものの、悪くない数字だ。実際、ロードカナロア産駒がデビューした17年6月以降の2000メートル以上のレースの種牡馬別連対率をみると、ディープインパクト(26.2%)と比べると分が悪いが、ロードカナロアの父キングカメハメハ(19.0%)、ハーツクライ(19.2%)、ハービンジャー(17.9%)などの有力種牡馬を上回っている。母系が長距離をこなす血統であれば、2000メートル以上でも結果を残すロードカナロア産駒は多い。2400メートルで2勝しているアーモンドアイは、母が06年エリザベス女王杯(G1、芝2200メートル)の勝ち馬、フサイチパンドラである。
サートゥルナーリアの母は05年オークス(G1、芝2400メートル)を勝ったシーザリオで、兄には14年ジャパンCを制したエピファネイアがいる。兄は騎手との折り合いに苦労するタイプだったが、サートゥルナーリアは「走っている間も冷静沈着」(辻野助手)で、そうした心配がない。血統、気性の両面からみても、ダービーの2400メートルはこなせそうである。
歴史に残る大種牡馬へ――。海外遠征での活躍、牡馬クラシック制覇など、ロードカナロア産駒が新たなステージでも実績をあげられれば、その道筋がはっきりとみえてくる。
(関根慶太郎)