企業が比較優位を決める(十字路)
米中貿易戦争のさなか、国際経済学者は古典的な貿易の比較優位ですら国民やそのリーダーに理解されないと嘆く。現実は着実に変化してきているからだ。
近年、この分野では国や産業に代わって企業の役割が注目されてきた。国内市場とは異なり、外国へ輸出するには種々の貿易コストを克服する必要があるので、生産性の高い企業でなければ輸出はできない。つまり輸出企業は生産性が高く、その結果、貿易自由化は企業淘汰を促して経済全体の生産性を高める。
加えて、いまや企業活動は一国や産業内に収まらない。グローバル企業は産業をまたぐ製品とその生産拠点、中間投入財とその調達拠点、そして製品の販売拠点の最適な組み合わせを同時に選択する。技術革新や貿易自由化政策によって貿易コストが低下すると、各拠点は再編され、国際的な企業活動と貿易の拡大を伴う。
こうした企業は技術優位によって市場を支配する力を持ち、国際展開でさらに集積効果とネットワーク効果を相互補完的に享受できる。そのため国際貿易では次第に巨大企業のプレゼンスが強まると予想できる。
実際、多くの先進国のデータでは、少数の大企業が輸出と輸入の双方で圧倒的なシェアを占めつつあることを示している。良くも悪くも、いまや少数の大企業の動向が一国の産業構造や比較優位を左右する。
企業数だけで見れば、産業によっては大半の企業が国内市場だけを相手にし、規模や生産性が大きく異なる企業がまだ共存している。しかし、技術革新と経済統合が不可逆なプロセスである限り、貿易で先行する変化が国内市場に押し寄せるのは時間の問題だ。ムダな抵抗はやめて新たな現実に立ち向かう勇気と知恵が求められている。
(大阪大学名誉教授 高阪 章)