NZ乱射 多様な被害者、移民大国の横顔映す
【シドニー=松本史】ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)で起きた銃乱射事件は、50人の死亡者を出した。被害者の出身国はシリアやパキスタン、インドネシアなど多岐にわたり、移民や難民を幅広く受け入れてきたNZの横顔を映し出す。移民を狙ったとみられる無差別テロに、アーダーン首相は社会の多様性の意義と団結を訴える。
NZメディアによると、犠牲者には幼い子どもも含まれる。亡くなった4歳の男の子の一家は1990年代にソマリアから難民としてやってきた。数カ月前に家族とシリアから逃れてきた少年(16)も殺害された。その他、パキスタン、インドやインドネシアなどの出身者らも死亡している。
殺人容疑で訴追されたオーストラリア国籍のブレントン・タラント容疑者(28)は白人至上主義に傾倒、イスラム教徒を標的にしたとみられる。「我々の土地に侵入してくるイスラム教徒を嫌悪する」「大規模なグループの侵略者だ」。同容疑者が犯行直前に交流サイト(SNS)に投稿した犯行声明とみられる文書には、反移民主義的な文言が並ぶ。
「これは我々の知るNZではない」。16日、クライストチャーチを訪問したアーダーン氏はイスラム教徒の女性が髪などを覆うヒジャブを身につけて地域のイスラム教徒らと面会、こう述べた。事件発生後の記者会見では「我々が共通の価値観として掲げるのは多様性だ」と強調、団結を呼び掛けた。
NZは幅広く移民や難民を受け入れている。同国統計局によると、2013年の国勢調査で海外生まれの人口は約100万人と、全体の2割以上を占めた。イスラム教徒は約4万6千人。06年から28%増え、人口の約1%だ。
タラント容疑者が育った豪州もイスラム教徒は人口の2.6%(16年)に上る。かつての「白豪主義」の時代は1970年代に終わり、多文化主義が社会に根付く。両国とも、多様な移民の受け入れが労働力の確保や消費市場拡大につながり、経済成長を遂げてきた面もある。
それだけに、明確に移民を狙い無差別に殺害した事件の衝撃は大きい。両国とも都心部への人口集中による住宅価格の高騰やインフラ不足を受け、移民に反感を抱く層は一定数いる。
ただ、テロなどに詳しいオーストラリア国立大学のクライブ・ウィリアムズ教授は、タラント容疑者が「自らの偏見に満ちた考えを極右主義者とのやり取りを通じて強め、移民やイスラム教徒をスケープゴートにした」と語り、政治に対応を求める一般市民からは大きく乖離(かいり)していると指摘する。
「我が国で最悪のテロ行為」。18日、アーダーン首相は犯行をこう批判。今後、同容疑者が旅したという世界各国での足取りや交流サイトの利用状況の調査を行い、真相解明を急ぐ考えを明らかにした。