「関税再発動」で対立 米中協議決着は4月以降に
【ワシントン=河浪武史、北京=原田逸策】米中両国の貿易交渉は、3月中と見込んでいた最終合意が4月以降にずれ込みそうだ。ムニューシン米財務長官は14日、記者団に「作業が残っている。3月中の首脳会談はないだろう」と述べた。米中交渉筋によると、合意違反があれば米国が一方的に制裁関税を再発動できる「罰則条項」を巡って対立。いまの制裁関税の撤回時期でも主張にすれ違いがあるという。
中国外務省は18日、習近平(シー・ジンピン)国家主席が3月下旬、欧州3カ国を歴訪すると発表した。その前後、米国に「立ち寄る」形式で米中首脳会談を開くことも検討されたが、今回の外遊日程に組みこまれなかったことで、3月中の会談は事実上なくなった。
トランプ米大統領は14日、ホワイトハウスで記者団に「中国との交渉は順調だ。ただ、米国にとって望ましい取引でなければならない」と改めて主張した。中国の李克強(リー・クォーチャン)首相も15日の記者会見で「双方に利益があり、ウィンウィンとなる成果を望んでいる」と語った。
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とムニューシン財務長官は11、13日に中国の劉鶴副首相と電話会談し、協定文の文言を詰めた。中国の国営新華社は15日に「実質的な進展があった」と報じた。
交渉の最終局面での対立点は「中国が合意事項を順守しているか監視し、違反した場合に罰則を科す仕組み」(米中交渉筋)をどう構築するかだ。次官級や閣僚級で定期協議を続けることでは一致したが、米国は中国の違反が発覚すれば制裁関税を再発動する構えだ。
ライトハイザー氏らは米国が制裁関税を再発動しても、中国は報復措置をとらないと確約するよう求めているという。
18年7月に米国が中国に制裁関税を発動した際、中国もすぐさま米国産品に報復関税を課した。米国が一方的に制裁を発動する制裁条項には「履行検証の仕組みは公平、平等でなければならない」(中国の王受文商務次官)と中国が反発する。
中国当局は金融や農業の市場開放に応じる一方で、中国の保険会社などの米国市場への参入拡大を要求。米企業が持つ人工知能(AI)など高度技術の対中輸出の制限の緩和も米側に求める。
米国の検討課題はいまの制裁関税の撤回時期だ。トランプ氏は「取引が成立すれば撤回する」と表明しているが、ライトハイザー氏らは中国の合意履行を見極めるため関税を段階的に下げる案を主張する。中国は「18年12月の首脳会談ではお互いがすべての追加関税を取り消す方向で一致した」(王氏)と追加関税の即時撤回を求める。
ライトハイザー氏によると合意文書は110~120ページと膨大な分量になる。中国側の改善策として(1)知的財産の保護(2)技術移転の強要禁止(3)非関税障壁の引き下げ(4)農産品の輸入拡大(5)サービス市場の開放(6)人民元相場の安定――で具体的な文言を詰めている。
構造改革では中国が行政手段による技術移転強要を禁じる外商投資法を15日に成立させ、20年1月から施行する。米国側も「大きな進展があった」(ライトハイザー氏)と一定の評価をする。中国企業の安値攻勢につながる補助金も、中国が国、地方レベルで世界貿易機関(WTO)ルールを順守することなどで合意に近づいているという。
中国側交渉筋は「中国景気の減速が目立っており、貿易戦争を終結させたい」と主張する。だが、中国内では「米国に譲歩しすぎだ」との不満もくすぶる。中国としては一方的に屈した印象を与えるのは避けたい。
一部の米メディアは習氏について「国賓待遇に仕切り直し、4月下旬に米国を公式訪問する」との見方を報じ始めた。米経済団体幹部も「両国は4月下旬を検討している」と明かす。ただ、2月の米朝首脳会談が物別れに終わったことで、習氏は訪米に慎重になる可能性がある。わざわざ米国まで出かけ、トランプ氏に追加関税の撤回を拒否されれば、習氏のメンツは丸つぶれだからだ。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは16日「米中首脳会談は6月までずれ込む可能性がある」と報じた。4月でなければ、6月の大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議の際に開かれる可能性も浮上しそうだ。
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