しぼんだ闘争心 迷える萩野、日本選手権欠場
競泳男子でリオデジャネイロ五輪金メダルの萩野公介(ブリヂストン)が15日、日本選手権(4月2~8日、東京辰巳国際水泳場)の欠場を決断した。ここ数年は不振が続き、国内大会でもライバルに後じんを拝してきた。「理想と現実の結果の差が少しずつ自分の中で開き、モチベーションを保つことがきつくなった」。夏の世界選手権出場の可能性がほぼついえ、東京五輪での連覇にも黄信号がともった。
ゴール後、電光掲示板を見つめる表情はうつろだった。2月16日のコナミオープン。日本選手権前の最後の調整の場となるこの大会で、萩野は400メートル個人メドレー予選に臨んだ。前半はテンポ良く進んだが、ラスト100メートルで大失速。予選とはいえ、4分23秒66は自身の日本記録から実に17秒以上も遅かった。
直前のグアム合宿では「近年で一番良い泳ぎをしていた」(平井伯昌・日本代表監督)だけに、そのショックは大きかった。ぼうぜんと控室に戻ると、ふさぎ込むように眠った。目覚めても「(記録が出ない)原因が分からない」と繰り返すばかり。そのまま決勝と翌日のレースを棄権。「頑張りたい自分と、ゆっくりしたい自分がいる」。悩んだ末、同19日から予定していたスペインでの高地合宿の参加も見送った。
競泳界のエースとしてリオ五輪で日本に金メダルをもたらした男は、その後、スポットライトの裏側でもがいていた。
400メートル個人メドレーでは一度も4分10秒を切れず。体調不良をたびたび訴えて、約1カ月プールを離れたことも。「泳ぎは悪くない」と試合前は快活に振る舞いながら、本番で瀬戸大也(ANA)らに競り負けると、会場の隅でがっくりと肩を落とす。かつて「怪物」と呼ばれた強さは、すっかり影をひそめていた。
「金メダリストにしかわからない苦しみもある。モチベーションを保ち続けるのは大変なこと」。かつて北島康介を指導した平井監督は萩野の葛藤する姿に理解を示しつつも、弱点を指摘してきた。「人に期待されているからとか、どこか義務感で泳いでいる。自分の意志があまりない」
リオ五輪後の目標を尋ねると、答えにつまる場面もしばしば。完璧主義者ゆえに本音をなかなか吐露しないが、試合での闘争心はしぼみかけていた。そのたびに、平井監督は語りかけた。「練習は、俺は協力する。ただ、何のために頑張るのか、次の目標はおまえが考えなきゃだめだ」
連覇のかかる東京五輪で目指すものとは……。監督の下を離れ日本に残り、己と向き合った末、欠場という今回の重い決断を下した。「休むことは決してプラスではない。東京五輪を目指す中で、それなりの覚悟もあるのだろう」。教え子の奮起を信じつつ、平井監督はあえて突き放すように言う。
「今回を機に、自分の心ともう一度しっかり向き合いたい」。4年前は世界選手権の直前に右ひじを負傷しつつ、翌年の日本選手権でしっかりと五輪代表を決めた。構図は似ているが、今回の問題はより内省的だ。東京五輪出場のかかる1年後の日本選手権で、果たして復活の快泳は見られるのか。残された時間はそう多くない。
(堀部遥)