ラッキーゾーンの効用 本塁打がもたらすレベル向上
野球データアナリスト 岡田友輔
ロッテの本拠地ZOZOマリンスタジアムにラッキーゾーンを思わせる「ホームランラグーン」が設置され、外野フェンスが最大4メートル近くなった。本塁打が出やすくなり、劇的な逆転も増えると期待される。
12球団の本拠地はバラエティーに富んでいる。広さはもちろん、屋根の有無、気象など種々の条件が違う。今回は球場の影響について考えてみたい。
球場がプレーに及ぼす影響を「パークファクター(PF)」と呼ぶ。本塁打のPFといえば、ある球場で本塁打が他球場に比べてどれほど出やすいか(もしくは出にくいか)という指標のことだ。
■恩恵受ける選手が出てくる?
ZOZOマリンを例に計算してみよう。2018年のロッテは本拠地での70試合で36本塁打を放ち、55本塁打を打たれた。つまり敵味方を合わせ、1試合あたり1.3本のホームランが出た。一方、ロッテの敵地での結果は73試合で42本塁打、74被本塁打。1試合あたり1.58本だった。このとき、ZOZOマリンの1試合平均1.3を他球場の同1.58で割った0.82がこの球場におけるホームランのPFとなる。昨季のZOZOマリンではパ・リーグの平均的な球場(PF=1)に比べ、2割近く本塁打が出にくかったということだ。過去数年間の平均値を使えば、さらに精度の高い指標となる。
「ホームランテラス」が設置された15年ヤフオクドームのPFは前年の0.7から1.48と急激に伸びた。リーグで最も本塁打が出にくかった球場が、最も出やすい球場に生まれ変わったのだ。15年に本塁打が倍増したソフトバンク松田宣浩のように、今年のロッテにも恩恵を受ける選手が出てくるかもしれない。
PFがわかれば、球場の影響を加味して選手を評価できるようになり、異なる環境でプレーする選手同士の比較もしやすくなる。昨季、12球団の本拠地で本塁打のPFが最も高かったのは神宮の1.76、最も低かったのはナゴヤドームの0.55だった。球場ごとに試合球もまちまちだった時代に比べれば縮まっているが、セ・リーグは昔から球場間格差が大きい。右翼から左翼に強い浜風が吹く甲子園では打席によっても大きな差が出る。特に17年はPF1.14と右打者には優しい球場だった半面、左には同0.63と非常に厳しかった。
PFはホームランのほかにも、様々な事象について算出できる。たとえば札幌ドームは昨季の本塁打のPFが0.68と一発こそ出にくかったが、得点のPFでは0.95と平均並みだった。これは球場が広い分、三塁打(PF1.22)や二塁打(同1.09)が出やすいのに加え、三振が少ないこと(同0.9)も影響していると考えられる。球場によって三振のPFに0.9~1.1程度のバラツキが生じるのは、マウンドの高さやバックスクリーンの色などが、ボールの見やすさなどに影響を与えるからかもしれない。失策のPFはマツダスタジアムや楽天生命パーク宮城のような天然芝の球場が高い。ただ、マツダではホームの広島とビジターチームの失策数にさほど差がなく、明確な「ホームアドバンテージ」は確認できない。
日本の球場のPF格差は米大リーグ以上に大きい。本拠地の特性にあったチームづくりをするというのは一つの考え方だが、あまりに特殊な球場を前提にしたガラパゴス的な編成は考えものだ。本当に地力のあるチームはオーソドックスな球場で最も勝てる。こうした視点に立てば、ホームランの出にくかったZOZOマリンが「普通の球場」に近づくのは、望ましい改修といえる。
■広すぎる球場も問題
ホームランの出やすい球場が増えるのは、日本野球のレベル向上にもつながると考えられる。少々の当たりでもスタンドに届くとなれば、投手は空振りを奪うための技を磨き、打者はスラッガー志向が強くなる。「飛ばないボール」といわれた統一球を導入したときのことを思い出してほしい。長打力のある選手の起用枠が減り、機動力や守備力を重んじた結果、野手が小粒になっていった。厳しいと思われる環境でないと投手の技量も落ちてしまう。
狭い球場が増えると本塁打の価値が下がるという意見もあるだろう。しかし、広すぎる球場も問題だ。日本がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を連覇したのは統一球の導入が本塁打の激減を招く前だった。本塁打は野球の華。見て楽しいのはもちろん、日本の強みである投手力を鍛えるためにも、なくてはならないものなのだ。