4度目の開幕投手起用が示す 田中将大への信頼
スポーツライター 杉浦大介
米大リーグ、ヤンキースが9日(日本時間10日)、田中将大を2019年シーズンの開幕投手に指名したと発表した。メジャー6年目を迎えた田中にとって、2年ぶり4度目の栄誉。野茂英雄(ドジャースなど)を上回り、日本投手では最多となる。
「もちろん、開幕というのは特別。ただ、今季は(開幕投手に指名されたとしても)絶対的な存在がけがをしてなんで。今までの3回はおまえでいくから、といわれてやってきた。それは違いますよね」
まだ開幕投手が発表されてなかった8日のオープン戦後、田中はそう語っていた。昨季19勝したルイス・セベリーノの起用が確実視されていたが、右肩炎症で戦線を離脱したため、田中の名前が急浮上したという経緯がある。いわば「代役の開幕投手」。ただ、そうだとしても、ここで再び大役を勝ち取ったことの価値が大きく変わるわけではない。
田中は14年のデビューから5年連続して2桁勝利を挙げ、日本選手の記録を更新してきた。「強いチームで投げているから」という声もあるが、一方で毎年ワールドシリーズ制覇を目標に掲げる常勝軍団で投げ続けることは容易ではない。
■監督「動じずに準備してくれる」
「マサ(田中の愛称)は人生を通じて大舞台での強さを示してきた。開幕戦に起用しても、動じることなく準備してくれるだろう」
8日にはすでにアーロン・ブーン監督も田中への全幅の信頼を語っていた。選手の年俸総額に常に大金が費やされてきた強豪チームで、このように6年間で4度も開幕投手を任されることはその評価の高さの証しでもある。
今春も田中はオープン戦の2試合に先発し、6回1/3を投げて2失点、7奪三振と安定している。気負いも気の緩みも感じられず、30歳になって迎えるシーズンに向けてまずは好スタートを切っている。
「彼は完璧主義者。現在はまだ"最高の出来"といえる段階ではないが、その理由の一つとして、シーズン中にはやらないような状況でそれぞれの球種を投げるなど、様々なことを試しているからだ」
ブーン監督の言葉通り、オープン戦での田中は新球のナックルカーブを試したり速球の制球に課題を見いだしたり、丹念にテーマを設けて実戦に臨んできた。痛打されるシーンがあっても、「打たれなかったら(課題が)出てこない」と前向きに捉える度量を持つ。8日のゲームでは得意のけん制球で二塁走者を刺すなど、辛抱強く磨き上げてきた総合力の高さも健在だ。
こうやってメジャーの舞台でも地道に積み重ねてきたからこそ、現在がある。その結果として、「5年連続2桁勝利」と「4度目の開幕投手」がある。28日、オリオールズと対戦する開幕戦は、田中がこれまで取り組んできたことの正しさを改めて証明する舞台といえるはずである。