ファッションの政治力に脚光 米女性議員ら積極活用
(グローバルViews)
ワシントン支局 芦塚智子
女性議員数が史上最多となった米連邦議会で、ファッションの「政治力」を積極活用する議員が増えている。そのリーダーは8年ぶりに下院議長に返り咲き、トランプ大統領と渡り合う野党・民主党のナンシー・ペロシ氏(78)だ。
2018年12月、ホワイトハウスでトランプ氏と下院の過半数奪回後初の協議を終えたペロシ氏は、伊ブランド、マックスマーラの鮮やかな赤ダイダイ色のコートにサングラス姿で笑みを浮かべて記者団の前に現れた。写真は「#NancyCoat」のハッシュタグでソーシャルメディア上に拡散し、あまりの反響ぶりにマックスマーラは同じコートの販売再開を発表した。
米ファッションブロガーのトム・フィッツジェラルド氏は「コートの鮮やかな色合いとシンプルなラインは、責任を担い、主導権を握る女性を暗示した」と指摘。ペロシ氏が下院議長就任の際に選んだホットピンクのワンピースも「女性が権力を握るというメッセージ」と説明する。
米国史上最年少の女性議員で左派のスター、アレクサンドリア・オカシオコルテス氏(29)も若手ファッションリーダーだ。トレードマークの深紅の口紅とフープ・ピアスは、ヒスパニック(中南米系)初の連邦最高裁判事で同じニューヨーク・ブロンクス地区出身であるソニア・ソトマイヨール氏(64)への敬意を示すものだという。
オカシオコルテス氏はツイッターで「(ソトマイヨール氏は)承認公聴会で地味な色のマニキュアをするよう助言されたが、赤のままにした」と説明。「これからはブロンクス・ガールにフープ(ピアス)を外せという人がいたら、議員のまねをしていると言える」と「ファッションの自由」を訴えた。環境政策「グリーン・ニューディール」発表の際にはグリーンのスーツで登壇した。
男性政治家もファッションを活用することはある。ネクタイを外したり、腕まくりをしたりすることで、親しみやすさや力の入れようをアピールする、などだ。ただ、女性の方がはるかに選択肢は多い。
2月の一般教書演説では、白いスーツやジャケットを着た民主党女性議員の一団が、紺やグレーのスーツ姿の男性議員の中でひときわ目を引いた。白は女性の参政権運動のシンボルカラーとされ、ヒラリー・クリントン元国務長官(71)が16年の民主党全国大会で大統領候補の指名受諾演説の際に白いパンツスーツを着たほか、黒人女性初の下院議員だった故シャーリー・チザム氏も選挙の勝利演説で白を着用した。今議会でイスラム教徒女性初の連邦議員となったイルハン・オマル氏(37)はイスラム教徒の女性が髪などを覆うヒジャブ、ラシダ・トレイブ氏(42)はパレスチナの伝統ドレスで就任式に臨んだ。
物議を醸すことも
一方で、ファッションのメッセージ性が物議を醸すこともある。有名なのは、議員ではないがメラニア・トランプ大統領夫人(48)が18年6月、不法移民の子供が収容されているテキサス州の施設に向かう際に着ていたジャケットだ。背中に大きく「I REALLY DON'T CARE, DO U?(ほんとにどうでもいいんだけど)」と書かれており、不法移民の親子引き離しが大きな問題になっていた時期だけに「不適切だ」と批判を浴びた。メラニア夫人は後に米テレビのインタビューで、ジャケットは自分の活動ではなく服装にばかり注目して批判するメディアへのメッセージだったと反論した。
女性の公人は必要以上にファッションを論評されることが多いのは事実。米女性議員たちは、それを逆手にとって活用しているといえる。フィッツジェラルド氏は「トランプ氏の長い赤のネクタイを巡る議論も含め、政治家のファッションスタイルが意味するものや象徴性を論評するのは構わない」と指摘。一方で「女性政治家のファッション自体を批判するのは不適当で性差別的、不公平だ」と強調している。
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