EV、欧州で新段階に 規制まで2年 基幹技術の外販や量販型登場
電気自動車(EV)を巡る競争が欧州で新たな段階に入る。独フォルクスワーゲン(VW)はEVの性能を決める基幹技術の外販を決めた。虎の子の技術を供給し生産規模を広げることでEVの価格を抑えることもめざす。欧州では2021年に世界で最も厳しいとされる環境規制への対応が必要なため、欧州メーカーは量販型の小型EVの商品化も急ぐ。
VWはEV専用に開発した車台(プラットホーム)の外販に乗り出す。車台は車の性能を左右する完成車メーカーにとっては虎の子の技術。EVスタートアップ企業への供給が決まったほか、提携関係にある米フォード・モーターとも交渉しているもようだ。
急拡大するモビリティー(移動)サービス事業者向けにも販売することで、電動化シフトを進める狙いもある。自動運転やライドシェアといったモビリティーサービス事業者の車の大部分がEVになるもよう。車台の供給を受ければ、内外装部品などを取り付けるだけでEVを生産できるようになる。
VWの18年の世界販売は約1083万台で3年連続で首位。自動車業界の巨人がEVの基幹技術を幅広く外販すれば、IT(情報技術)事業者などのモビリティーサービスへの参入障壁が低くなる可能性がある。VWもEV事業の生産コストを削減できる。
5日開幕したジュネーブ国際自動車ショーでは、VWグループや仏グループPSAなどが量販型の小型EVを相次ぎ公開した。
各社が意識するのが欧州連合(EU)の21年の燃費規制だ。欧州で販売するメーカー平均で走行1キロメートルあたりの二酸化炭素(CO2)排出量を95グラム以下に抑える必要がある。三井物産戦略研究所によると、ガソリン車の燃費に直すと1リットルあたり24.4キロメートルとなる。
EUの規制は15年基準より27%低い水準だ。他の主要市場では、中国は20年に117グラム以下、日本は122グラム以下、米国は25年時点で97グラム以下だ。
EU規制では、1グラム超過するごとに販売1台あたり95ユーロ(約1万2千円)の罰金を払わなければならない。仮に域内で100万台販売するメーカーが10グラム未達の場合、罰金は単年で約1200億円になる。達成するまで毎年払うため業績への影響は大きく、企業イメージの悪化にもつながる。
VWはまず子会社のアウディなどグループ会社に「MEB」と呼ぶEV専用の基本設計を広げる。アウディの小型多目的スポーツ車(SUV)「Q4 eトロン」は20年に量産を始める。アウディの既存の小型SUVは既存2車種で世界販売の約15%を占める。
VWの18年のEV生産台数は全体の1%以下の約4万台だが、25年までに50車種以上を発売する計画だ。ヘルベルト・ディース社長は日本経済新聞などのインタビューで「欧州では30年に40~50%をEVにする」と明らかにした。30年に世界販売の40%をEVにする。
欧州2位のPSAは、EVとエンジン車双方に対応した新型の車台を使い、プジョーブランドの主力小型車「208」にEVも選べるようにした。英調査会社のJATOダイナミクスによると、208などの「サブコンパクト」と呼ばれるサイズの車両は欧州市場の約2割を占め、SUVに次ぐ有力分野だ。
日産自動車はEVに近い独自のハイブリッド技術「eパワー」を搭載した小型SUVのコンセプト車「IMQ」を発表。eパワーを初めて海外展開する。IMQをベースにした量販モデルを22年までに発売し、欧州での電動車両の販売台数を現在の5倍に増やす。
ホンダは年内に量産開始し欧州などで発売する小型EVを「ホンダeプロトタイプ」として世界初披露。小型車「フィット」と同等のサイズで、満充電での走行距離は200キロメートル以上、30分で80%を充電できるとしている。
足元ではVWや独ダイムラーの欧州勢は新規制を2年後に控えるにもかかわらず、燃費の悪いSUV比率が高まりCO2排出量が増えている。調査会社の英PAコンサルティングは17年秋時点で、21年規制をクリアできるのはトヨタ自動車やルノー・日産自動車連合など数グループに限られると予測した。出遅れたドイツ勢などは量販EVの投入で急ぐ必要がある。
(ジュネーブ=深尾幸生、白石透冴、細川倫太郎)