イスラエル首相苦境、対外強硬路線に拍車も
汚職疑惑で検察が起訴方針
【テルアビブ=飛田雅則】イスラエルのネタニヤフ首相が苦境に陥っている。検察が2月28日に汚職疑惑で起訴する方針を示し、4月9日に予定されている総選挙への影響は避けられない。首相続投のために極右などへの依存を強める可能性があり、強硬路線に拍車がかかって、中東の緊張を一段と高めかねない。
通算13年近く国政トップの座にあるネタニヤフ氏に対し、マンデルブリット検事総長は同氏に宛てた声明で「個人や家族の利益を考慮し、権威を乱用した。公務員も腐敗した」と非難した。
現職の首相が起訴されればイスラエルでは初めてとなる。起訴前にはネタニヤフ氏の反論を聞く機会が設けられる。手続きには少なくとも数カ月かかり、実際の起訴は総選挙後になる見通しだ。
起訴理由としては、ネタニヤフ氏が通信大手に便宜を提供した見返りに、同社傘下のニュースサイトで自身を好意的に報じるよう求めたうえ、賄賂も受け取った疑いが挙げられている。
ネタニヤフ氏は2月28日の演説で疑惑は事実無根だと否定し「首相としてより長く国民に仕えるつもりだ」と語った。
同氏が率いる右派政党リクードは国会(定数120、比例代表制)で30議席を持つ第1党だ。右派や宗教政党からなる連立政権の要となっている。検察の起訴方針表明後に公表された現地メディアの世論調査によると、4月の総選挙でのリクードの予想獲得議席数は29議席となった。
ネタニヤフ氏への批判票を吸い上げるとみられるのは、政治の刷新を訴える中道新党を立ち上げた元軍参謀総長のベニー・ガンツ氏だ。別の中道政党と統一の候補者名簿で選挙に臨むことで合意。リクードより優位との世論調査もあり、第1党の座を狙っている。
ガンツ氏に勢いがあるが、他の党と連携して過半を確保できるかは不透明だ。一方、現地有力紙ハーレツは3日、リクードと連立を組むすべての右派政党や宗教政党が検察の起訴方針の公表後もネタニヤフ氏の支持を表明したと報じた。総選挙後の連立の枠組みは流動的となっている。
選挙では経済対策のほか、安全保障が関心を集めている。18年11月にパレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが多数のロケット弾を撃ち込んだことで、有権者の間では対パレスチナ強硬論が強まっている。「イスラエルの破壊」を掲げるイランの台頭への有権者の懸念も大きい。
ネタニヤフ氏は与党の座を死守するため、残された1カ月ほどの選挙戦で外交・安保面で有権者の不安をあおる戦略に出ることが予想される。中道票を奪いにいくのではなく、右派の票を取り込んで議席を伸ばそうとするかもしれない。
ネタニヤフ氏はトランプ米大統領と親密な関係を築き、イラン核合意からの離脱やイランへの経済制裁の復活を米国に働きかけてきた。トランプ氏が決断した米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転は、ネタニヤフ氏にとって重要な成果だ。パレスチナ自治区のヨルダン川西岸での入植活動を進め、強硬路線を望む世論の高い支持を得てきた。
トランプ氏は2月末、ベトナムの首都ハノイでの米朝首脳会談後の記者会見で、あらためて「(中東和平の)取引を成立させたい」と語った。しかし、ネタニヤフ氏の首相続投が阻まれれば、トランプ氏のシナリオには狂いが生じる。
イランを敵視するトランプ政権は中東政策の柱に、イスラエルとサウジアラビアを置いてきた。だが、18年10月に著名記者殺害事件が起き、サウジの実力者ムハンマド皇太子の指導者としての信頼性に疑問の目が向けられた。もう一つの柱であるイスラエルのネタニヤフ政権の動揺はトランプ政権にとっても打撃となる。