セルヒオ・ガルシアの中の「ジキルとハイド」
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
毎週のように米男子ゴルフで若い選手が躍動し、彼らの活躍を書こうと思えばどんなに紙面やスペースがあっても足りない。だがその一方で、ベテラン選手の後ろ向きの話題を伝えなければならないのは残念だ。
それがいくつかある時点でがっかりなのだが、やはり、セルヒオ・ガルシア(スペイン)の"事件"から目を背けるわけにはいかない。
■一線越えた振る舞いで失格処分
彼の場合、トラブル自体が少なくない。悪童と形容されることもしばしば。喜怒哀楽を隠さず、子どものような振る舞いは彼の魅力の一部でもあるが、先日、さすがに一線を越えてしまった。
欧州PGAツアーでの一コマ。彼はサウジアラビアで行われたサウジインターナショナル(1月31日~2月3日)に出場したが、少なくとも5つのグリーンをパターで傷をつけ、何と主催者側から失格処分を受けた。
グリーン以外でも彼はバンカーショットを失敗すると、足跡をならすどころか、何度もクラブを振り回し、バンカーに怒りをぶつけている。その映像は瞬く間に広がったが、ショッキングですらあった。
彼は後に、失格処分を受け入れる声明を出したが、とてもプロ21年目、39歳の選手の行為ではなかった。
さて、そうした光景を、彼の友人らはどんな思いで見つめていたのか。
ガルシアの場合、意外に聞こえるかもしれないが、友人が多い。仲間の選手からも人気がある。ただ、そんな彼らでさえ、ガルシアに関してはどうしても理解できない部分があるよう。それでも親友の一人であるルーク・ドナルド(英国)は2012年、ガルシアがフォーサムやフォーボールなど、ライダーカップ(2年に1度開催される米国と欧州との団体対抗戦)のペアマッチに強いことについて、こう分析した。
「彼は他の選手と一緒のときはリラックスできる。一人で何かを背負ってしまったときは、そうではなくなる」
同じく12年、米サウスカロライナ州キアワアイランドリゾートで行われた全米プロ選手権では、アダム・スコット(オーストラリア)がガルシアのコースでの振る舞いを見て、友人として忠告した。
「お前はいい選手なんだ。楽しめ。自分で自分を苦しめるな」
おそらく、ドナルドと同じことを言っている。
■歯車が狂うと自分を制御できず
ガルシアは自分一人でプレッシャーを抱え込まない限り、崩れることもなければ、コースで我を失うことがない。そういうときは結果も悪くない。しかし、一人で戦っているとき、どこかで歯車が狂うと楽しむどころか、自分を制御できなくなる。抱えているものの重みに耐えられなくなるのだ。その結果、自滅していく。
それでも、ライダーカップなどを除けば、基本的にゴルフは個人競技。コースで頼れるのは最終的には自分だけ。それは決して彼一人に課された条件ではなく、他の選手も毎週、同じようにプレッシャーと戦っているのだが……。
それにしても今回のことは残念だ。
彼を知る人は、彼がコースを離れれば素晴らしい人間であることを知っている。子どもたちのサッカーチームをつくり、若いゴルファーをサポートしていることはその一例にすぎない。人間そのものに魅力があり、彼の周りには人が集まる。
もっとも、彼が自分からそうした活動を公にすることはないだけに、サウジでの大会ようなことが起きると、「また、あいつか」と彼の負の面ばかりがクローズアップされる。
もちろん、サウジでの行為そのものを受け入れることはできない。グリーンをパターで傷つける行為は、絶対にあってはならないことだ。しかし、もっと深く彼を知ろうとすれば、コースでのイメージとのギャップの大きさに気づく。
ただ、彼も39歳。さすがに自分の振る舞いを見直すべきだ。
それと同時に、我々も悪い評判だけで彼を判断することを避けたい。