非核化交渉仕切り直し 「寧辺」以外が焦点に
【ハノイ=鈴木壮太郎】トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長による2度目の米朝首脳会談は非核化に関する合意文書をまとめることができず、米朝の非核化交渉は仕切り直しとなる。2日間の首脳会談で米側は寧辺(ニョンビョン)以外の核施設を含めた幅広い非核化措置を求めたが、北朝鮮側は限定的な非核化措置に固執した。今後の継続協議ではこの溝を埋められるかどうかが焦点となる。
会談が物別れに終わった後の1日午前0時(日本時間同2時)すぎ。李容浩(リ・ヨンホ)外相は金正恩氏が泊まるホテルで緊急記者会見を開き、北朝鮮が提案した非核化措置を明らかにした。
米国が国連制裁の一部を解除すれば、寧辺地区のプルトニウムとウランを含むすべての核施設を米国専門家の立ち会いのもと両国の技術者の共同作業で永久に完全廃棄する。核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の永久中止も文書で確約すると表明した。
異例の深夜会見で交渉内容を明かしたのは、北朝鮮側が制裁の全面解除を求めたとするトランプ氏の発言に反論するためだ。李氏は「米国が再交渉を提案してきても我々の立場は変わらない」と強調した。
崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官も1日の韓国メディアとのインタビューで米国の要求を「無理な主張」と指摘し「(金正恩氏が)米国のやり方に不信感を覚え、考えが少し変わった気がした」と述べた。制裁が続けば「新たな道」を模索せざるをえないとした金正恩氏の新年の辞にも言及し、米国をけん制した。
米朝のズレは、非核化の対象や手法を巡るものだ。米国務省高官は1日、寧辺の核施設廃棄は「2018年9月の南北共同宣言で提起したもので、新しい提案ではない」と指摘した。米専門誌が18年7月に存在を報じたウラン濃縮の秘密施設「カンソン」についても、トランプ氏は記者会見で「把握している」と述べた。専門家はこうした施設が寧辺以外に10カ所はあるとみている。
核実験とICBMの中止も金正恩氏が18年4月の朝鮮労働党中央委員会総会ですでに表明しており、新味はない。米国のビーガン北朝鮮担当特別代表は1月の講演で、北朝鮮に核施設だけでなく、現在保有している核物質、核兵器、弾道ミサイル、発射台、他の大量破壊兵器を含めた廃棄を求めた。「大量破壊兵器とミサイル開発の全容」も申告すべきだと語った。
北朝鮮は非核化でどこまで踏み込むのか。北朝鮮の内部事情に詳しい金正奉(キム・ジョンボン)元韓国国家安全保障会議情報管理室長は「金正恩氏が祖父、父の代からの『遺訓』である核の放棄はできず、米国の要求には応えられない」と指摘する。
北朝鮮が交渉を打ち切る可能性は低い。国連安全保障理事会の制裁を解除・縮小するには米国との合意は欠かせないからだ。
ただ、金正恩氏に「完全な核放棄」の覚悟がないまま、小手先で新たな非核化措置を米国に提案しても「ビッグディール」を求めるトランプ氏が満足するレベルには届かない。3回目の首脳会談が実現するかは不透明だ。