米民主党、大統領弾劾なお手探り ロシア疑惑に照準
【ハノイ=中村亮】米野党、民主党はトランプ大統領のスキャンダルへの追及を強める姿勢だ。トランプ氏の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告の議会証言では、2016年の米大統領選で浮上したロシアとの共謀疑惑について、トランプ氏本人の関与を裏付けかねない言質を引き出した。ただ大統領弾劾の発議にはなお慎重論が根強い。トランプ氏も民主党に反発を強めており、政策のさらなる停滞を招く恐れもある。
民主党はコーエン被告の公聴会開催にこだわった。18年11月の中間選挙で下院の多数派を握り、「政権監視」を党の重要な役割に据えた。トランプ氏の私生活に精通しスキャンダルの暴露を回避する役割まで務めた被告は民主党にとって最適な証人だ。3月上旬から服役すると公聴会に出席が難しくなるため、民主党はギリギリのタイミングで開催にこぎ着けた。
狙いは的中した。コーエン被告は公聴会冒頭で、トランプ氏を「人種差別主義者」「詐欺師」「いかさま師」と厳しく非難した。「トランプ氏にはこの国を率いる意思などない」とも畳みかけた。「(トランプ氏に)あるのは自身を売り込んで、富や権力をつくりあげる欲望だ」と断じた。
コーエン被告の公聴会を受けて、20年の大統領選出馬を決めた民主党候補は相次いでトランプ氏を批判した。
エイミー・クロブシャー上院議員は不倫相手への口止め料の支払いにトランプ氏が関与した疑いに触れて「これは重大な出来事だ」と指摘し、さらなる追及が必要だとの見方を示した。キルスティン・ジルブランド上院議員もトランプ氏とロシアとの不透明な関係を念頭に「大統領候補は選挙で有利になるために外国勢力と組んではならない」と強調した。
一方、トランプ氏は28日、滞在先のハノイでの会見でコーエン被告の証言に触れ「不正確だ」「多くの嘘があった」などと非難した。トランプ氏追及の勢いを強める民主党をけん制する狙いがありそうだ。被告の説明について正当性を下げることで支持率に響かないよう予防線を張っている。
民主党は攻勢を強めつつも、大統領弾劾の発議には慎重論が目立つ。米メディアによると、民主党下院トップのペロシ議長は27日、トランプ氏の弾劾発議は急がない考えを改めて強調した。コーエン被告の公聴会でトランプ氏に対する追及の機運が高まったが「私は公聴会を全く見ていない」と淡々と語った。世論の支持を固める前に弾劾を急げば政権打倒を目的とした政治的な狙いと米国民に受け止められ、逆に民主党の支持率を落とすリスクをはらむからだ。
今後のカギは、トランプ氏周辺とロシアの不透明な関係を巡る疑惑「ロシアゲート」の捜査終了の時期と報告書が握る。捜査を仕切るモラー特別検察官は捜査報告書をまとめて司法長官に近く提出するとの観測が強まっている。報告書は議会が大統領弾劾を判断する材料の土台となる。司法省が捜査結果を開示すれば議会はトランプ氏の弾劾の是非の判断を迫られる。仮にトランプ氏の不正行為が発覚すれば弾劾を求める声が一気に強まる可能性もある。