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世界1位 大坂なおみ、花開いた異次元の闘争本能

テニス進化論(1)

(更新)
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振り返ってみて、あれが時代の変わり目だったと思う場面がスポーツの世界にはある。女子テニス界のそれは大坂なおみ(21、日清食品)の2018年全米オープン優勝だろう。

決勝の相手はセリーナ・ウィリアムズ(37、米国)。四大大会23勝、21世紀の女子テニス界に君臨してきた女王である。大坂は20歳にして初めての四大大会決勝。だが、舞台に萎縮することも、幼い頃から憧れてきたセリーナをリスペクトしすぎることもなかった。「コートに立ったら私は別人。一つの試合にすぎない。ファンだからといって彼女と同じようになりたいと思わないし、私は私自身でありたい」。その言葉通りにセリーナを力でねじふせると、続く19年全豪オープンも制して世界ランキング1位に。セリーナ以来の四大大会連覇は女子テニスの新時代到来を予感させるに十分だった。

全米で目覚めた「殺人本能」

とりわけ全米オープンでは、大坂のパワフルなストローク、最速200キロ近いサーブが全開。対戦相手はなすすべがない試合が多かった。正直、妙味の少ない試合に、多くのメディアが大坂の「キラー・インスティンクト(killer instinct)」を見た。直訳すると「殺人本能」。物騒な言葉に思えるが、スポーツの世界では、相手をたたきのめさないと気が済まない闘争本能といったところか。

killer instinctは誰もが持てるものではない。華麗で冷酷なロジャー・フェデラー(スイス)、機械のようなノバク・ジョコビッチ(セルビア)、もちろんセリーナ……。隙を見逃さず相手を追い詰めていく彼らは間違いなく、killer instinctの持ち主だろう。半面、男子の元世界1位のアンディー・マリー(英国)、大坂の前の女子世界1位、シモナ・ハレプ(ルーマニア)らにはどこか勝負どころでも優しさが見えてしまうことがある。

18年ウィンブルドン選手権の練習中、これが話題になった。「サーシャはkiller instinct、ある?」。かつて下部ツアーでプレーしていた前コーチのサーシャ・バインに大坂が尋ねる。「『ノー』と言ったら、なおみは『どういうこと?』って言うんだ。『僕は競うことが好きでスポーツをしたのであって、誰もがそれを持って生まれてくるわけじゃない』って言ったら、なおみはけげんそうな顔していたっけ」と、セリーナの練習相手を8年務めたバインは笑う。

激しい闘争心を最初から見せていたわけでない。そもそも技量が足りなかった。本格的にツアーを回り始めた16年ごろ、大坂は負けてもさほど落ちこんだ顔を見せなかった。まだ経験不足という自覚があり、「学べることが多いのでよかった」と平然と語り、海外メディアを驚かせた。少しずつ勝ち方を学び、この年の全米で最終セット5-1のリードから逆転負けした悔しさを乗り越え、東レ・パンパシフィック・オープン(PPO)では準優勝を手にした。

「明るいサーシャ」と成長した1年

だが、1年もたてば研究されてしまう。大坂の力強いストロークはいなされ、相手は持久戦に持ち込むようになった。パワーのある選手にありがちだが、大坂も早く決めようと打ち急ぐあまり、先にミスを犯すようになった。「出た試合はすべて勝ちたい」という自他ともに認める完璧主義者は、少しうまくいかないと過度に落ちこみ、さらにミスを重ねる悪循環に。killer instinctが悪い方向に作用した状態だ。明らかに行き詰まっていた17年末、大坂がバインと契約した理由は明確だった。「ネガティブになりがちな私には明るいサーシャが必要だから」。マネジメント会社IMGを中心に「チームなおみ」が結成され、フィジカルとフィットネスの専属トレーナーもついた。

「セリーナだって全てをハードヒットしない」と、バインは説いた。80%の力でも十分パワフルだし、テニスはどこに打つかがより大事だ。ショットに余裕があれば精度が高まり、ミスも減る。大坂くらいのパワーなら、そこそこのコースでもエースショットになる。体を絞って、動けるようになり、さらにスタミナに自信を持てるようになったのも大きい。フィジカルができたことで、集中力を保って我慢ができるようになった。その心技体が初めて一大会を通じてかみ合ったのが、18年3月のBNPパリバ・オープン。ツアー初優勝が四大大会に次ぐ格の大会というのも大物感を感じさせた。

一度の勝利で満足したわけではなかろうが、その後は通常のツアーでコロッと負けた。全米オープン前哨戦では2大会連続の初戦敗退。「つくづく自分は下手だと思った」。ガツンと殴られるような苦杯が基本に立ち返らせる一因となった。

バインは「結果に固執しすぎるな」と言い続けた。その時々の運不運も関わってくる結果を考える前に、まずは目の前の一ショットに集中しよう、と。その教えの通り、目の前の試合、その一球に集中力を見せた結果が、全米オープン初優勝だった。といっても、「50%の確率でエースを奪えそうなとき、『打て』という自分と『やめておけ』という自分が戦いを始める。そして打ってネットに引っかけて『何やってんの、私』って思うことがよくあるんだけどね」と大坂。今年の全豪も前哨戦は調子が悪く、ふてくされて4強止まり。「精神的に大人になりたい。3歳児みたいなところがあるから」とこぼすほど落ち込んだが、気持ちの整理をつけて全豪にのぞめたことは四大大会連覇という結果が示している。

多文化に囲まれ、育まれた「私は私」

大坂のタフさは、そのルーツからくるものもあろう。18年全米オープンの直前、両親が応じたニューヨーク・タイムズ紙のインタビューによると、1990年代、札幌で2人は出会った。交際を根室市の祖父母に猛反対され、大阪に移る。そこで姉妹が生まれた。日本での生活には母方の大坂姓の方が便利だったという。「3歳で米国に行って、次に日本を訪れたのは13歳くらいかな。その間、日本の親戚とは接点がなかった」と大坂は話している。

母は日本語で話し、日本文化を大切にしてきた。大坂はおにぎりなどの日本食やアニメ、Jポップを好み、姉は日本語が堪能で、なおみもリスニングはさほど問題ない。心苦しいとしつつ記者会見を英語で通すのは、「(変な日本語で)Idiot(バカ)だと思われたくないから」。世界1位のいまとなっては、うまくない日本語表現が思わぬ英訳で違った意味で流布する心配もあっての彼女なりの考えなのだろう。

大坂なおみは何者か? 海外メディアは興味があるようだ。長年米国に住み、英語の方が上手で、米国籍も持ちながら、なぜ外国人をあまり受け入れない日本を選んだのか、と。

その種の質問が出るたびに、大坂は「質問の意味が分からない」という顔をする。「父はハイチ系で、ニューヨークではハイチから来た祖母とハイチの文化の中で暮らした時期がある。母親は日本人だから日本文化にも囲まれて育った。私が米国人というなら、米国に住んでいるからかな。答えになっているといいけれど」。生まれながらに多文化に囲まれてきた大坂には、そうとしか答えられない。「『私は私』という意識が強い。一つに規定されるのを嫌う」とは、IMGバイスプレジデントの坂井秀行の大坂評だ。

幼い頃、競争相手は姉だった。テニスと出合った1999年6月。プレー経験のほとんどない父レオナルド・フランシスは、ウィリアムズ姉妹が全仏ダブルスを制覇するのを見て、娘たちにテニスを教えようと決めた。姉まり3歳、なおみはまだ1歳。「あのころ好きでやっていたか、というと違うと思う。姉を倒したかっただけ。ゲームとかスポーツ系のものは絶対に負けたくなかった」。午後3時すぎに下校すると、夜まで公営コートで父と練習に明け暮れた。

ジュニア大会には「レベルが低いし、小さいうちから毎週試合に出たら疲れる」との父の方針で出なかった。これもウィリアムズ姉妹にならった異端なやり方だが、なんら結果を出していない選手に周囲は厳しい。そんな大坂姉妹に、救いの手は日本から来た。

08年、ヨネックスの社長に就任したばかりの米山勉(現会長)は何枚もの便箋に手書きでびっしりと書かれた手紙を受け取った。大坂の母、環さんからの「サポートしてほしい」という依頼だった。米山は米フロリダ州に社員を派遣してプレーを視察させ、サポートを即決した。「10歳にしてすごい球を打っていたそうです。コートの内側に入らないことも多かったけれど。サーブもとにかく速かった。コートに入れにいくような球を打つより、強打できる子の方が伸びるから」とヨネックス宣伝部の稲木鉄志。15歳でプロに転向すると、ヨネックスは正式に契約を結んだ。

同じころ、日本テニス協会コーチ女子担当の吉川真司は、世界中で行われる日本選手の戦績をチェックしていて、大坂の名前を見つけた。「誰だ?」。13年、東京で開催される東レPPO予選に主催者推薦で出ると聞き、駆けつけた。

「驚きました。力負けしていないのと、手先がしなやかで柔らかい。体全体の柔らかさがこれまで見た日本選手にはないものだった」。予選は1回戦負けだったが、吉川は試合後すぐにあいさつに行った。「日本に来るときはサポートします」。人当たりのいい吉川が、シャイな大坂に合ったのか、1年もたたぬうちに母娘は来日。「日本人ですからサポートしてください」。それ以降、大坂たちは頻繁にナショナルトレーニングセンター(東京都北区)に現れるようになった。

パワーは破格で足も速く、バックハンドの技術は欠点がほぼなかった。一方で「多分、ボレーはほとんど打ったことがなかったと思う」と吉川。スピン、スライスも教わったことがないようだった。だが「学習能力が高いから、ちょっと教えると試合で使う。日本人っぽい真面目さもありますから」。吉川と出会って1年後には世界ランク400位台ながら、同19位のサマンサ・ストーサー(オーストラリア)に勝ち、注目を集める存在となった。

東京五輪の開催が決まり、日本協会の強化予算が増えた時期にもあたり、四大大会などに吉川らサポートチームを派遣できるようになった。16年全豪オープンで予選を勝ち上がり初めて四大大会に出場したときには、米テニス協会が猛烈な圧力をかけてきたが、吉川に不安はなかった。大坂たちが自然に自らを「日本人」と語っていたからだ。17年2月、大坂は国・地域別対抗戦、フェド杯で初めて日本代表として戦った。一度出場した国以外でのプレーをITFは認めていない。「子供のころ、日本を選択したのは父。友達は米国人ばかりだけれど、私自身は日本人って感じている」

新コーチはビーナスの元練習相手

全豪優勝直後のバインとの関係解消が世界的なニュースになったのは、現在の大坂への注目度、高いネームバリューゆえだ。「全豪オープン中から考えていた。私とサーシャの行動を見て気づいた人もいるんじゃない? とにかくこの大会は乗り切らなきゃって思っていた」。彼から学んだことは多い。人に対して心を開くこと、常に前向きなこと、試合のたびにストリングを張り替え、勝った試合の後もしっかり調整するという"プロの常識"……。それでも「成功より幸福感が大事」と自らの内面と相談して決めた。

直後のドバイ選手権は初戦敗退。18年全豪前の世界72位が今や1位。この1年あまりの環境の激変に気持ちがまだ追いついていない。そして2月28日、ビーナス・ウィリアムズの練習相手で、米テニス協会女子ナショナルコーチだったジャーメーン・ジェンキンスが新しいコーチに決まった。彼の弟は現在、セリーナの練習相手でもある。

大坂は初めて日本から出た、世界的に人気のあるスポーツでのワールドワイドなスターといえる。「発言にしろ、マーケティングにしろ、日本だけでなく、アジア、欧州、米国も意識しないといけない。僕らにも未知数なことが多い」と坂井はいう。「一時に一歩しか進めない」が口癖の大坂。日本人未踏の世界へ足を踏み出したばかりだ。(敬称略)

(原真子)

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日本のテニスは「平成」の時代を通じて、世界のトップへと羽ばたいた。その幕開けとともに日本女子の黄金期が訪れ、終わりには世界一強い選手が登場した。時代を彩った選手、それを支えた「あしながおじさん」まで、開拓者たちが駆け抜けた道程を5回に渡って描く。

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