サウジ、駐米大使に女性起用 ソフト路線演出
【リヤド=岐部秀光】2018年10月に起きた著名記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件で、国際社会における信頼が大きく傷ついたサウジアラビアがイメージの改善に躍起になっている。新しい駐米大使に、欧米外交界で評価が高いリーマ・ビント・バンダル王女を起用。18年末に外相に就任したアッサーフ元財務相はソフト路線を前面に出す。ただ、事件で広がったサウジ不信の払拭は容易ではなさそうだ。
リーマ王女の大使起用は国営メディアが23日、報じた。駐米大使ポストは、ムハンマド皇太子の同腹の弟であるハリド王子が務めていたが、記者殺害事件後、ハリド王子が帰国し、不在が続いていた。サウジの外交上の超重要ポストに女性を起用するのは異例だ。ハリド王子は国防副大臣に任命された。
リーマ王女は流ちょうな英語を話し、欧米の識者に友人が多い。18年に女性の自動車運転をはじめて認めたサウジは、女性の駐米大使任命で、皇太子が旗振り役を務める改革が女性の社会進出にもつながっていることを国際社会にアピールする狙いだとみられる。
それだけではない。王女の父は1980年代から20年以上にわたり駐米大使を務め、ブッシュ父・子の元大統領と深い親交があった。サウジの王室には、バンダル家が持つ米共和党との人脈を生かし、対米関係の再構築に万全を期するねらいがある。若いハリド王子は、米議員との面談に遅刻して「儀礼上、問題がある」と米国内で批判を浴びた。
サウジの外交にも軟化の兆しがみえる。アッサーフ外相は、イランやカタールを厳しい言葉で批判した前任のジュベイル氏と対照的に穏健で慎重な言動が目立つ。サウジは米トランプ政権が求めているカタールとの断交解消について、クウェートの仲介案に一定の理解を示したとされている。
サウジは1月、スイスのリゾート地で開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に主要閣僚とともに大勢のPRチームを派遣し、欧米メディアを通じてサウジの変化を訴えた。ダボスでは、18年にサウジ首都リヤドで開いた国際投資会議(通称「砂漠のダボス会議」)を欠席した欧米の有力金融機関幹部がサウジ閣僚と会談するなど、一部の企業関係者は関係正常化にカジを切っている。
さらに皇太子は2月、パキスタン、インド、中国を歴訪し、多額の経済協力で合意。本格的なトップ外交への復帰をアピールすることに成功した。18年11月にアルゼンチンで開いた主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、欧米指導者から事件の説明を求めて詰め寄られるなど冷遇されたが、6月の大阪のG20で完全な復権を果たしたい立場とみられる。
しかし、記者殺害事件を当初強く否定し、その後説明を二転三転させたサウジの対応が、外国人投資家らに広げた不信感は根深い。メディアやソーシャルネットの規制・介入で目立たないが、皇太子の強引な統治に対する国内の不満もくすぶっている。国際人権団体は、女性の人権向上を長く訴えてきたサウジ人の活動家がなお収監されていることを批判している。