マチャド獲得 330億円に込めたパドレスの野心
スポーツライター 杉浦大介
フリーエージェント(FA)の目玉の一人、マニー・マチャド内野手が21日にパドレスと大型契約を結んだことが明らかになった。10年で総額3億ドル(約330億円)は、MLBのFA選手が結んだ契約としては史上最高額。この記録は未契約のブライス・ハーパーにすぐに破られる可能性も高いが、途方もない額であることに変わりはない。
■昨季、地区最下位チームがなぜ
過去4年で平均159試合に出場し、35本塁打を放った球界屈指の強打の内野手マチャドが超巨額契約を得たこと自体は驚きではない。サプライズがあったとすれば、獲得したのがパドレスだったことだろう。
2007年以降プレーオフから見放されているパドレスは、昨季も66勝96敗でドジャースから25.5ゲーム離されてナ・リーグ西地区最下位だった。チーム打率はリーグ13位(.235)。防御率も同13位(4.40)で、8勝以上を挙げた先発投手はゼロ。端的に言って、"マチャドを獲得すれば一気に優勝争い"という段階にいるチームですらないのだ。今回の補強の後でも、ESPN.comのキース・ロウ記者は「今季のパドレスの勝ち星は70~75程度だろう」と予想している。
過去を振り返れば、パドレスは14年にもジャスティン・アップトン、マット・ケンプ、クレイグ・キンブレルといった大物を次々と獲得する大補強を敢行した。そのときもオフの間は"最大のウィナー"などと騒がれたが、翌15年は74勝88敗という成績に終わった。外様のタレントで表面を塗り固めても、チームの地盤がしっかりしていなかったことは明白だった。
パドレスは一昨年1月にウィル・マイヤーズ外野手と当時の球団史上最高額となる6年8300万ドルで再契約。1年前のオフには再び球団史上最高額の8年1億4400万ドルでエリック・ホズマー内野手を獲得した。今回のマチャドを含めて3年連続で大枚をはたきながら、依然として優勝争い参入の準備が整わないのだから、一見すると無軌道な散財を繰り返しているように思える。
■マイナーに有望株、将来はタレント集団?
しかし――。今回のマチャド獲得が理にかなっていると感じられるのは、現在のパドレスは、有望な若手、トッププロスペクトをマイナーに多く抱えているからだ。上記のロウ記者が2月上旬に選定したファーム組織のランキングで、パドレスは30チーム中堂々の1位である。大型プロスペクトの呼び声高いフェルナンド・タティス・ジュニア内野手、クリス・パダック投手、フランシスコ・メヒア捕手、ローガン・アレン投手、あるいは昨季デビューしたルイス・ウリアス内野手といった好素材が腕を磨いている。彼らのうちの何人かは、今季中にもメジャーで登用されるはずだ。
繰り返すが、今季、来季くらいにパドレスが優勝を狙うというのは現実的なことではない。ただ、自前の若手タレントの力を考えれば、まだ26歳のマチャドがいまの力を保った2、3年後までにはリーグ屈指のタレント集団に成長する可能性を秘めている。マチャドに法外な額を授けた今回の補強策は、先を見据えた先行投資だ。そういった意味で、再建中ながら、数年後のために菊池雄星を獲得しておいたマリナーズのやり口に少し共通点はあるのかもしれない。
今季、パドレスが再び低迷に陥るようなことがあっても、それは"2014年の繰り返し"ではない。いわば中期視野に立った補強策である。マチャド獲得の成否の判断は、少なくとも5年間は待ってみなければならない。