欧州議会選、極右に勢い 伊・仏で首位予測
【ブリュッセル=森本学】5月下旬の欧州議会選で「反欧州連合(EU)」や「反移民」を掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)の政党が台頭する見通しが強まってきた。欧州議会が18日発表した予測によると、最大会派の中道右派勢力は第1党を堅持するが、イタリアとフランスで極右政党がトップになる勢いだ。英離脱で揺らぐ欧州統合に新たな逆風が吹きそうだ。
欧州議会はEU加盟28カ国でつくる立法機関で、議員は5年に1度の直接選挙で決める。5月23~26日投票の次期議会選では、英国が3月末にEUを離脱するため、751から705に減る定数を27カ国に割り当てる。
欧州議会は各国の世論調査を集計して選挙結果の予測をまとめた。イタリアではポピュリズムの連立政権を構成する極右政党「同盟」が27議席(現有6議席)に伸び、同国トップになる見通しだ。個別の国家政党としてはドイツのメルケル首相が所属する独キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぎ、2番目に多い議席を得る。
同盟を率いるイタリアのサルビーニ副首相は難民や移民を排除する強硬な政策を推進してきた。中東やアフリカからの難民を乗せた船の入港を拒むなど扇動的な手法で支持を広げる。だが、かつて主張した「ユーロ離脱」は封印。EU域内の右派ポピュリズム勢力を集め、内側からのEU改革を目指している。
フランスの極右「国民連合」も21議席(同15議席)に伸長し、同国首位になる勢いをみせる。党首のルペン氏はサルビーニ氏とも連携する。
「マクロン大統領を倒すための闘いだ」。1月13日、欧州議会選の選挙戦を始動したルペン氏は23歳のバルデラ氏を比例名簿の1位に指名した。同氏はパリ郊外のイスラム系住民が多い地域を拠点に移民対策強化を訴えてきた。「反マクロン」を打ち出し、反政権デモ「黄色いベスト」支持層も取り込みたい考えだ。
スペインは現状で議席ゼロの極右「ボックス(VOX)」が6議席を獲得する勢いをみせる。同国では欧州議会選の直前の4月下旬に総選挙が予定される。中道左派の少数与党が2019年度予算の成立に失敗したためで、ここでもボックスの躍進が予想される。
中東やアフリカからの移民や難民がスペインに向かう流れができたことに不満を持つ有権者がボックスを支持する。総選挙で勢いづけば欧州議会選で予測を上回る結果を得る可能性はある。
ポピュリズム政党は左派にもみられる。イタリアで同盟と組んで連立政権の一角を担う「五つ星運動」は22議席(現有13議席)に飛躍する見込みだ。フランスでは銀行の国有化などを主張するメランション氏が率いる「不服従のフランス」が現有ゼロ議席を8議席に伸ばす勢いをみせる。
左右両派のポピュリズム政党が伸びる一方、中道政党は苦戦を強いられそうだ。独CDU・CSUなどが参加する中道右派で欧州議会における最大会派である欧州人民党(EPP)グループは183議席を獲得する見通しだ。新議会でも最大会派を維持するが、定数に占める比率はいまの29%から26%に低下する。
第2会派で中道左派の欧州社会・進歩連盟(S&D)は135議席で、現有25%から19%に縮小するとみられる。定数が1割近く削減されるなかでの占有率低下は中道勢力の退潮を印象づける。
EPPとS&Dを合わせた中道勢力は318議席にとどまり、欧州議会で初めて過半を割り込む公算が大きい。欧州の安定を支えてきた中道右派と中道左派による「二大政党制」が大きく揺らぐ見通しが強まっている。
議会選後に右派ポピュリズム政党が結集すれば、第2会派のS&Dに迫る勢力となり、重要法案などで存在感を発揮する可能性もある。サルビーニ氏らは、強権的な政治手法を巡ってEUと対立するポーランドの与党「法と正義」などとも連携を探る。ただ、対ロシアなどで温度差もあり、連携の枠組みは流動的だ。
親EU派の新興リベラル勢力も健闘しそうだ。初めて欧州議会選に臨むマクロン仏大統領の政党「共和国前進」は18議席と予測される。連携政党の仏「民主運動」と合わせると20議席にのぼる。仏でこれまでの主要政党だった共和党や社会党をしのぎ、ルペン氏の「国民連合」を猛追する。