契約書類の作成・チェック、リーガルテックで楽々
法務の様々な課題を技術で解決するリーガルテック分野のスタートアップの躍進が目立ってきた。人工知能(AI)による契約書分析の自動化や電子化した契約書をクラウド上で行うサービスなどだ。同分野としては規模の大きい資金調達が相次ぐなど、事業の成長性に期待が高まる。中小企業向けサービスなども登場。人手不足解消の一助となりそうだ。
ホームズ
Holmes(ホームズ、東京・千代田)は、契約書まわりの作業をSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供する。
300種類以上の定型契約書や顧客が設定した様式などから最適なひな型を選び編集後、電子化した契約書にアクセスできるリンクをメールやチャットツールなどで顧客に送付できる。顧客は内容を確認後、なつ印などをして送付元に送り返せば契約完了だ。契約書の進捗管理もチーム内で共有できる。
笹原健太最高経営責任者(CEO)は「機能をシンプルにUI(ユーザーインターフェース)にもこだわることで顧客の使いやすさを重視している」とする。法人契約が基本で1社あたり最低12アカウント、月6万円から。手軽さがうけて有料契約顧客数は約200社に拡大している。
社員約70人のIT(情報技術)サービスのH2(エイチツー、東京・港)は顧客との契約書のやりとりにホームズを導入した。従来は本社で作成した契約書を顧客にFAXや郵送してなつ印をもらっていた。郵送の場合契約まで1週間以上かかることもあったが、今では契約書の作成まで2分で済み、効率化につながっているという。
リーガルフォース
契約書自体の内容の精査をAIで行うサービスも登場している。LegalForce(リーガルフォース、東京・中央)は契約書の草案をAIが瞬時に分析し、抜け漏れを指摘する。
主に大企業の法務部門や法律事務所など法務専門家の活用を見込む。これまで過去の契約書や知識などから労働集約的に照合してきた作業を代替する。価格は月10万円から。150社超が利用している。今後対応する契約書の種類を増やすほか、中小企業向けに利用回数などを限定して価格を抑えたサービスや英語の契約書に対応した機能などの拡張予定だ。
昨年11月には同社のサービスを活用して、AIと現役弁護士の「契約書分析バトル」が開かれた。弁護士とAIが契約書を精査し、問題点の発見を競う内容だ。結果は弁護士に軍配が上がったが、AIは今も進化を続ける。法律事務所ZeLo(同)の弁護士でもある角田望最高経営責任者(CEO)は「法務の労働集約的な作業をAIが代替できれば、弁護士などがさらに付加価値の高い仕事に集中できる」と未来図を描く。
GVA TECH
自前では法務人材をそろえにくく、コストもあまりかけられない中小企業に向けたサービスも登場してきた。GVA TECH(東京・渋谷)は契約書分析サービス「AI-CON」を手がける。1月、これを拡充する形で法人登記の自動化サービス「AI-CON 登記」(アイコン登記)を始めた。
登記情報と株主名簿の書類をオンライン上に登録すると情報が自動入力され、不足情報を追加入力すると法人登記の必要書類を自動作成する。通常数日かかる書類作成が最大数時間で可能という。価格は1件あたり5千円から。年内に1千社の活用を見込む。
弁護士ドットコム
徐々に広がりつつあるリーガルテックの走りは東証マザーズ上場の法律相談サイト運営の弁護士ドットコムだ。15年に契約書の電子化サービス「クラウドサイン」の提供を開始。同サービス上で締結された契約書の数は18年末で約50万件に達したという。
クラウドサインの開発責任者の橘大地執行役員は「あらゆるリーガルテック企業と製品連携することで利便性を高め利用を促進することで、業界を活性化させたい」と連携強化を進める考えだ。
国もリーガルテックの広がりを後押しする。今国会では行政手続きを原則として電子申請に統一するデジタルファースト法案が審議される見通し。19年は「リーガルテック元年」とも言え、小回りが利きスピードのあるスタートアップの一段の活躍が期待できそうだ。
(企業報道部 京塚環)
[日経産業新聞 2019年2月18日付]
ビジネスの最新動向やDXやSDGsへの取り組み、スタートアップ企業の動向などを特集。ビジネス専門紙「日経産業新聞」のコンテンツをまとめてお読みいただけます。
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