ラグビー日本、残り7カ月で考えるべきこと
9月開幕のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会に臨む日本代表候補が動き出した。スーパーラグビーのサンウルブズも2月23日に国内初戦を迎える。本番まで残り7カ月。これから必要な準備や注意点、対戦国の状況について考えてみた。
まず気になっているのは、W杯のメンバー31人を固める時期だ。現在、日本代表候補の選手は、東京都内で合宿中のメンバーと、サンウルブズでスーパーラグビーに参戦しているメンバーの二手に分かれている。合計で約50人の選手がW杯を目指して競争している。
多くの人間を競わせて選手層の厚みが出れば、けが人が出たときにも安心だ。スーパーラグビーを戦うためには、ある程度の人数も必要だろう。しかし、W杯までの残り時間を考えると、固まったメンバーで連係を練り、チームの一体感を高めるのが定石ではないか。
ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ(HC)は6月の合宿から人数を絞る考えのようだが、2015年W杯の前は、3月から40人弱で長期合宿を張った。そのため、戦術練習や体づくり、対戦国の対策などにたっぷり時間を掛けられた。ジョセフHCには4年前との準備期間の差を埋めるための工夫を期待したい。
■心強いベテランたちの復帰
チーム内に「第三者的な目」を持った人がいることも成功のカギだと考える。前回のW杯はメンタルコーチの荒木香織さんが、選手やエディー・ジョーンズHCと適切な距離感を保ちながら悩みを聞き、答えを見つけ出す手助けをしてくれた。
選手同士では距離が近すぎ、逆に話しにくい話題もある。少し離れた立場の人が身近にいてくれることはありがたかった。
前回W杯の2年前。僕が主将を外されたときも悩みに悩んで、荒木さんに相談した。返ってきたのは意外な言葉。「もう代表をやめたら、ええんちゃう?」
「あ、やめてもええんや」って思えたことで、僕は自分からもう一度、主体的に代表でのプレーを選びにいった。荒木さんの作戦にはまった形だった。
ジョセフHCも外国人のメンタルコーチを呼ぶことを考えていると聞く。ただ、通訳を挟んだ会話で、どれだけ深い意思疎通ができるか。代表のOBらが第三者的な役割に就いてもいいだろう。
メンタル面を考えたとき、W杯を経験しているコーチ、スタッフがいないことは懸念材料だが、その点では今回の合宿からベテランが増えたことは心強い。
SH日和佐篤は追加招集でW杯へのチャンスを与えられ、足を疲労骨折したフッカー堀江翔太もチームに帯同してリハビリを行っている。2人とも2度のW杯に出場しているだけに、苦境でチームを落ち着かせてくれるだろう。
ただでさえW杯は大きな重圧が掛かるが、今回は自国開催という、日本の誰も体験したことのない舞台となる。W杯を知る選手はもっと多くてもいいと思う。
日本代表候補の一部がプレーするサンウルブズも2月16日にシャークス(南アフリカ)と初戦を戦った。結果は10-45の完敗だった。
反則を連発したスクラムをはじめ、セットプレーであれだけ苦戦すると厳しい。数少ない攻撃機会も、キックを使った戦術がなかなかうまくいかなかった。蹴るタイミングの判断やキックの精度に問題があり、相手にただボールを渡すだけというシーンが多かった。
シャークスの対策にはまった面もある。サンウルブズはバックスにボールを回してからタッチライン際にゴロのキックを何本か蹴ったが、ほとんどが相手の正面で捕球されてしまった。シャークスのWTBらがあらかじめ下がり、キックに備えていたからだ。
蹴るスペースがないのなら、キックをやめてパスで攻めるなど、臨機応変に対応したかった。同様のキックを多く使う日本代表に対しても、同じ対策を取るチームが増えるだろう。サンウルブズでの試合で、W杯に必要な修正力を磨いていってもらいたい。
プラス材料もあった。最初の20分間は代表と同様の前に出る守備が機能し、ボール奪取に度々成功した。日本代表で攻撃戦術を担当するトニー・ブラウンHCが率いるチームだから、ボールさえ持てれば魅力的な攻撃を見せられるはず。23日には国内初戦となるワラタス(オーストラリア)戦を迎える。昨季4強の難敵だが、少しでも前進した姿を見せてほしい。
■スコットランド、アイルランドにもすき
日本代表とサンウルブズは徐々に始動したが、日本がW杯で対戦するチームは既に厳しい戦いを続けている。今月開幕した欧州6カ国対抗で、アイルランドとスコットランドはここまで2試合ずつ戦った。9日には両チームが直接対戦し、アイルランドが22-13で勝っている。
この試合、スコットランドは1トライしか挙げられなかった。しかも起点はパスカット。狙い通りの攻撃で崩したものではない。W杯でも対戦するアイルランドが相手だから手の内を隠していた可能性はあるが、ゴール前に進んだ後にどうやって仕留めるかが、全く見えなかった。日本がつけ込むべきところだろう。
ただ、ゴール前に進むまでの中盤の攻撃は強力だった。FBホッグを筆頭に突破力のある選手がいるし、SHレイドローのキックも安定している。こちらもキック力が高いSOラッセルとのハーフ団は日本の脅威になる。
世界ランキング2位のアイルランドは、大黒柱のSOセクストンが負傷交代したのにスコットランドに勝ちきったところがしぶとく、底力を感じさせた。土台のFWも相変わらず力強く、タフだった。
攻撃面で目を見張るようなものは少ないが、ラインアウトから一発でトライを奪ったサインプレーは見事だった。こうした特別なプレーを毎試合、用意するのがシュミット監督の特長だ。日本も十分に対策を練る必要がある。
一方で、アイルランドが20-32で敗れた2日のイングランド戦は日本を勇気づけるものだった。イングランドの勝因は速い防御ラインとキック戦術。いずれも日本代表が目指すものである。
アイルランドの弱点も垣間見えた。通常、中盤で攻撃側がパスを展開したとき、守備側のWTBは前に上がってタッチライン際を守る。WTBの背後のスペースにはFBが上がってキックに備えるが、アイルランドはこの連携がやや鈍かった。キックを多用する日本にとっては、狙いどころだろう。
(元ラグビー日本代表主将)