賃金の下振れ回避か 厚労省、毎月勤労統計の手法変更
前首相秘書官は圧力否定
不正調査のあった毎月勤労統計に新たな問題が浮上している。2018年に実施した調査対象の入れ替えで、厚生労働省が主導する形で賃金が大きく出やすい手法が採用されていたことが15日に分かったためだ。従来は対象を見直すと下振れしやすい仕組みだった。これに「問題意識」を伝えた前首相秘書官は圧力を否定したが、厚労省が賃金の下振れを回避しようとした可能性はある。
毎月勤労統計は2~3年に1回、調査対象になっている従業員30~499人の事業所を入れ替える。15年までは全ての事業所を入れ替えていたが、18年から部分入れ替えに変えた。
調査対象となる事業所は時間が経つと、倒産した企業などが抜け落ちる。残った企業は一定の競争力があり、平均賃金も高くなりやすい。この状態から調査対象を総入れ替えすると「玉石混交」に戻り、入れ替え後の賃金は下振れしやすい。15年には総入れ替えで、決まって支給する給与は2932円(1.1%減)の差が出ていた。
厚労省は総入れ替えに伴って生じる統計のズレを、過去3年間にわたって補正してきた。15年の総入れ替え時は過去の現金給与総額などの増減率がおおむね下方修正されている。
この問題が政府内で注目されたのが15年。18年の調査手法変更に向けて、準備が始まったころだ。
「経済の実態をタイムリーに表すため、改善の可能性を考えるべきではないかとの問題意識を伝えた」。15年に首相秘書官だった財務省の中江元哉関税局長は15日、衆院予算委員会でこう説明した。「政府にとって都合がいいデータが出るように不適切な方法を取らせる意図はない」とも述べ、厚労省に圧力をかけていないと主張した。
中江氏は調査対象事業所の入れ替えに伴い、過去の賃金データも変動するとの説明を15年3月31日に厚労省から受けたと明かした。厚労省は同年6月、毎月勤労統計の調査方法の改善策を検討する有識者会議を立ち上げている。
厚労省は15日、この会議の議事録のうち非公開となっていた部分を公表した。これによると、調査方法の変更は同省が議論を主導。15年9月16日の会議で、同省の姉崎猛統計情報部長(当時)が「部分入れ替えを検討したい」と発言している。
この前の会議で座長を務めていた阿部正浩中央大学教授は「方向性としては総入れ替え方式で行うことが適当としたい」と述べていた。会議は中間とりまとめを経て「また開催させていただくことになる」(姉崎氏)としたが、これ以降は開催されていない。18年分の調査からは部分入れ替えが決まり、過去の統計の改訂もしなくなった。
姉崎氏は初回会合の冒頭で「アベノミクスの成果ということで、賃金の動きが注目されている」と発言している。安倍政権が賃上げを重視した成長戦略を進めるなか、賃金統計が下振れするのを避ける雰囲気が生まれていた可能性がある。