新人の活力 ベテラン刺激 阪神、内野定位置争い混沌
キャンプリポート
早出の野手が黒土のグラウンドで必死にゴロをさばき、打撃練習では隣のケージを横目に快音を競い合う。「(各ポジションの)レギュラーは1個だけ。競争してつかんでもらう」と矢野燿大・新監督。横一線からのレースという大仕掛けが、特に内野の開幕メンバーを混沌とさせている。
最短距離にいるのは2人だ。昨季はチームで唯一、全試合に出場した新主将の糸原健斗(26)、右の大砲候補で昨季11本塁打の大山悠輔(24)。糸原は主に二塁、大山は三塁を守り、ともに3年目ながら、チームを引っ張る気概にあふれる。
だが、監督は簡単には当確を出さない。複数ポジションを守れるベテラン、新人らがそこに絡んで競う構図を楽しんでいる風情さえある。
台風の目ともいえる存在が、キャンプで評価急上昇中のドラフト3位の新人、木浪聖也(ホンダ、24)だ。本職は遊撃だが、二塁、三塁も守備は職人の領域。足さばき、捕球、送球まで動きは流麗で「特にスローイングがいい」と矢野監督。
右投げ左打ちでパンチ力もあり、7日の紅白戦では内角の難しい球に反応し、右翼へ技ありの3ラン。本人は「打撃も守りもまだ未熟」と謙遜するが、内野のどこでも守れる器用さは先輩諸氏を出し抜く武器になる。
もう一人、周囲に刺激を与えているのが、長年の定位置、遊撃に再挑戦中の16年目のベテラン鳥谷敬(37)。若手に負けまいと一緒に全メニューをこなす。動きには機敏さとキレがあり、相当の覚悟で臨んできたのは明らか。矢野監督も「気持ちが伝わってくる」と評価する。
2017年に三塁、18年はさらに二塁へコンバート。明け渡した遊撃、三塁で若手が育つ一方、自身は打撃不調に陥った。控えに甘んじた昨季は連続試合出場が1939試合で途切れ、チームも最下位に。今季にかける思いは人一倍強い。
さらに昨季、打撃開眼で定位置をつかみかけながら負傷離脱した二塁の上本博紀(32)、遊撃の北條史也(24)も紅白戦で鋭い当たりを連発し、復調をアピール。まだ打者の目が慣れていない時期のはずだが、競争にあおられ、野手陣の仕上がりは総じて早い。
ベテランや新人がカンフル剤になること自体、殻を破るべき成長途上の選手が多い証左でもある。チームの形はまだ見えないが、競争による底上げに上位進出の夢を託す春の陣だ。
(影井幹夫)