慰安婦巡る発言撤回拒否 韓国、強硬姿勢の悪循環
【ソウル=恩地洋介】従軍慰安婦問題を巡り「天皇陛下の謝罪」を求めた韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長は12日、日本側が求めた発言撤回と謝罪を拒否した。一方、李洛淵(イ・ナギョン)首相は日本企業への賠償命令が相次ぐ元徴用工訴訟の判決受け入れを日本側に要求した。日韓の対話チャネルは細っており、解決の糸口を見いだせないまま韓国側が強硬姿勢に終始する悪循環に陥っている。
安倍晋三首相は13日の衆院予算委員会で、文議長の発言に関し「多くの国民が驚き、怒りを感じただろう。極めて遺憾だ」と述べ、謝罪と撤回を求めた。日本側の抗議を受けた文氏は、訪問先のワシントンで記者団に「謝罪する事案ではない」と強調。首相の反発には「到底理解できない」とも語った。
超党派でつくる日韓議員連盟の額賀福志郎元財務相(自民)は12日にソウル入りした。13日朝には李首相の官邸で朝食を取りながら1時間余り会談し、文議長の発言について「許しがたい発言なので、反省するよう文議長に伝えてほしい」と要請。李氏は「日韓関係をこれ以上悪化させることはしたくない」と応じた。
ただ、日韓関係を悪化させた根源である元徴用工訴訟への対応を巡っては応酬が繰り広げられたようだ。額賀氏は1965年の日韓請求権協定に基づき日本政府が求めた協議について「適切な回答をお願いしたい」と求めた。会談に同席した韓日議連の姜昌一(カン・チャンイル)会長の発言を伝えた韓国メディアによると、李氏は「日本が裁判結果を受け入れないのは話にならない」と、逆に譲歩を迫った。
出口が見えない一連の問題の背景には、日本との関係改善への意思が希薄な大統領府の姿勢が影響している。文政権は南北融和と国内の経済対策を最優先課題としており、日本統治下で起きた最大の抗日独立運動「三・一運動」から100年にあたる3月1日には大規模な記念行事を計画中だ。
反日機運を高めて革新勢力の求心力や北朝鮮との融和政策につなげる狙いがのぞくなか、文政権は当面、日韓の問題には様子見を決め込む可能性がある。韓国内でも保守系を中心に、日本との対立を放置する文政権の外交政策を批判し日韓の改善を求める声はある。
しかしそうした声は少数派にすぎず、革新系勢力は日本の反発を受けるたびに強硬姿勢に傾くスパイラルに陥っている。与党「共に民主党」の院内代表は13日に「文議長の発言は妥当な指摘だ。日本の指導層は偏狭な歴史認識から抜け出せずにいる」などと強調した。
文政権が最近、保守政権下の外交・安全保障観を百八十度転換したことも対日政策に影を落とす。1月に発刊した国防白書からは北朝鮮を「敵」と呼んできた表現を削除。北朝鮮の脅威に対する米国や日本との協調を唱えてきた朴槿恵(パク・クネ)前政権の方針は一転し、領土問題などの対立を抱える日本に警戒の目を向ける姿勢が鮮明になっている。