逃れられない「監視」、個人しばる無料の罠
中国河北省の省都、石家荘市の一角。結婚に向け新居を探す喬茂虎さん(33)がスマートフォン(スマホ)を熱心に操作し始めた。「老頼地図」というサービスを使い、半径500メートルに住む借金の未返済者の住所や氏名、借金額を表示。近くに100人以上いることがわかると、思わず顔をしかめた。「住環境が悪い」。別の場所に住もうと決めた。
老頼地図は、1月に中国のネット大手テンセントの対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の追加機能として登場。河北省の裁判所が公式情報を提供している。借金問題に厳しく臨む中国当局の方針と、あらゆるデータを囲い込みたいテンセントの利害が一致した。
プライバシー保護の規制にあまり縛られず個人情報を集められる中国。その姿は、少数のIT(情報技術)巨人にデータが集約される「ニューモノポリー」のひとつの未来像でもある。
「グーグルは各国の情報機関が舌なめずりする究極の個人情報を握っている」。ベルギー在住で個人情報に詳しいトーマス・ビンジェ弁護士は...
データ資源は21世紀の「新たな石油」といわれる。企業や国の競争力を高め、世界の経済成長の原動力となる。一方、膨大なデータを独占するIT(情報技術)企業への富と力の集中や、人工知能(AI)のデータ分析が人の行動を支配するリスクなど人類が初めて直面する問題も生んだ。
連載企画「データの世紀」とネット社会を巡る一連の調査報道は、大きな可能性と課題をともにはらむデータエコノミーの最前線を追いかけている。