維新で訪日客は呼べぬ 山口県宇部市総合戦略統括監 小檜山大介氏
語る(ひと・まち・産業)
■山口県宇部市の久保田后子市長(64)に乞われ、日本航空から市の戦略担当に転じた小檜山大介さん(58)。航空会社で営業畑が長く、全国の地域実情を知る立場から、10年先の宇部はどうあるべきかに取り組んでいる。
「山口県は紳士的な人が多い印象。街も整っているが、逆に言えばとがった所がない。PRにも熱心とは言えず、特に観光面は弱い。事実、これだけ日本にインバウンド(訪日外国人)が来ているというのに、山口県は全国43位。前任地の長崎が観光に特化した都市だったのとは対照的だ」
「宇部には産業の集積という優位性がある。山口宇部空港があり、高速道路が横断し、山口大学の理工系や県の産業技術センターなどが集積している。インフラを生かした企業誘致はもちろん、スタートアップ企業の育成、取り込みにも熱心だ。となれば課題はやはり観光面の底上げだろう。人が集まる仕掛けが、地方都市には欠かせない」
■宇部市の人口は約17万人。名前は宇部興産などで有名だが、全国的な特産品や名勝があるわけではなく、他の都市同様に若年層の流出も深刻だ。
「1月に、JR宇部線と小野田線をバス高速輸送システム(BRT)化するための勉強会を立ち上げた。時間帯によっては2時間に1本、乗客も数人という列車もある。BRT化は合理的な判断だと思う。運行中の路線でBRT化を検討するのは全国でも初めての試みになる」
「もちろん廃線ありきではなく、課題を検討していくということだが、行き詰まってから考え始めるのでは遅い。5年先、10年先に自分たちが住む地域がどうなっているか、真剣に想像し、考える場を作った。BRTは観光との連携も十分に考えられる」
■山口県の観光資源といえばまず明治維新が頭に浮かぶ。しかし航空会社で地域営業に長く携わった経験から、歴史は集客につながらないと警鐘を鳴らす。
「確実に言えるのは、維新で外国人は呼べないということ。各地の事例を見ても景勝地やグルメ、ありがちと思われても忍者といった日本文化が好まれる。いま外国人が殺到する長門市の元乃隅神社は歴史など関係なく、赤い鳥居の景観が注目された。現代の観光地とはそういうものだ」
「ジャパンレールパスでインバウンドが広島まで押し寄せているのに、山口へは足を運ばない。寄ってもらう仕組みがない。盛岡市などは盛岡冷麺だけで客を呼べるようになった。そういったものをどう発見し、提供していくかだ」
■宇部市のアピールポイントは何か、ほかの都市との違いは何かを日々考える。
「国から持続可能な開発目標(SDGs)の理念に沿って取り組む都市のひとつに選ばれ、関連イベントも増えた。宇部では中心部にあるときわ公園で、現代彫刻の展示会『宇部ビエンナーレ』も60年近く開催されている。しかし知名度は低い。芽はあるのだが、活用しきれていない。こういったものをどのように形にしていくか、今年1年、頭をひねってみたい」
《一言メモ》
スタートアップ支援に力
宇部市は2018年に、国から国連のSDGsの理念に沿って開発するポテンシャルの高い都市として「SDGs未来都市」に認定された。ICTやイノベーションを切り口にして、特に起業家やスタートアップ企業支援に力を入れている。
山口フィナンシャルグループの創業支援事業と連携し、年に40件以上の起業数と、現在の3割以上の上積みを目指している。支援のための拠点も設け、セミナーや創業コンテストなどに積極的に取り組んでいる。
市には県の産業技術センター、山口大学の工学部や医学部が立地し、中小企業にとっては産学連携に適しているとアピール。久保田后子市長も、首都圏での企業向けの立地説明会にはたびたび顔を出して宣伝活動にいそしむ。目標は宇部から全国区のスタートアップ企業を輩出することだ。(山口支局長 竹田聡)