北朝鮮と東南ア、関係修復進む 金正男氏殺害から2年
【クアラルンプール=中野貴司】北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏が2017年2月にマレーシアで殺害されてから、13日で丸2年となる。実行役の女2人の公判は3月にも弁護側の立証作業が始まり、今夏以降に判決が出る見通しだ。悪化していた北朝鮮と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の関係も少しずつ修復が進み、殺害事件の衝撃と影響は薄れつつある。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄である金正男氏は17年2月13日午前、多くの利用客が行き交うクアラルンプール国際空港で襲われ、直後に死亡した。金正男氏の顔に猛毒のVXを擦りつけたベトナム籍のドアン・ティ・フォン被告とインドネシア籍のシティ・アイシャ被告は殺人罪で起訴された。
一方、犯行に関与した疑いで北朝鮮籍の4容疑者が指名手配されたが、いずれも犯行直後にマレーシア国外に逃亡。北朝鮮の関与を立証するのは難しくなっている。
事件後はマレーシアが平壌にある同国大使館を閉める方針を表明するなど、自国民を事件に巻き込まれたASEAN各国と北朝鮮の関係は悪化した。北朝鮮が実体的に運営していたレストランは閉鎖に追い込まれ、経済や貿易面でも関係が細っていた。
そうした関係が変わる契機となったのが、18年6月にシンガポールで開かれた米朝首脳会談だ。各国は米朝の交渉を見守る姿勢に転じ、北朝鮮への強い批判を控えた。
18年11月から12月にかけて、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が実行役の1人の出身国であるベトナムを訪れるなど、北朝鮮側も関係修復を進めた。米朝の2回目の首脳会談がベトナムの首都ハノイで開かれることが決まったのは、殺害事件の悪影響が和らいだことを象徴する。
17年10月に始まった女2人の公判は18年6月までに検察側の立証作業が終了。3月中旬から6月下旬にかけて、無罪を主張する弁護側が反論する機会が与えられ、2被告も証言台に立つ見通しだ。裁判官は18年8月に「検察側の提示した証拠は現時点で信頼できる」と述べており、弁護側が説得力のある無罪の論拠を提示できるかが焦点となる。
検察側の求刑通り殺人罪での有罪が確定すれば現行法制下では死刑となる。ただ、マハティール政権は3月にも、死刑廃止法案を国会に提出する見通しだ。法案が成立・施行されれば、仮に有罪となっても2被告が死刑を免れる可能性があり、政権交代の影響が2被告の処遇にも及んでいる。