不動産大手2社、「しぶとい市況」でスポットライト
証券部 和田大蔵
不動産大手2社の株価が堅調だ。2018年末からの株価上昇率は三菱地所が10%、三井不動産が8%に達し、日経平均株価(4%)を上回る。両社の株価は18年の東京都心のオフィス大量供給を警戒し、市場平均を長い間下回ってきた。ところが不動産市況は大方の予想に反して持ちこたえ、米中摩擦懸念などで景気敏感株から逃避した投資マネーの受け皿になっている。8日に両社は18年4~12月期決算を発表する。市場の期待を満たす結果を出せるかどうかで、好調な株価の賞味期限が決まる。
証券アナリストの市場予想平均(QUICKコンセンサス)によると、三菱地所の18年4~12月期の連結営業利益は前年同期比7%増の1539億円。同期間では2期ぶりに過去最高になったようだ。三井不動産も4~12月期の連結営業利益は市場平均で17%増の1585億円だ。
不動産大手2社の株価は14年から18年半ばまで約5年にわたって市場平均を下回ってきた。東京都心の18年以降のオフィス大量供給が議論され始め、18年を境に都心のオフィス需給が悪化するとの懸念が強まったからだ。
だが蓋を開けてみると企業のオフィス拡張需要は強く、都心のオフィスビルの空室率は18年末時点で2%未満とバブル期以来の水準まで低下した。オフィス賃料は年率9%上昇している。結局のところ大量供給問題は杞憂(きゆう)に終わったのだ。「不動産市場を取り巻く懸念材料が薄れた」(野村証券の福島大輔氏)ため、大手2社の株価は18年10月から市場平均を上回り始めた。
大量供給にかかわらず不動産市況が崩れないのは、就業者の増加で大量供給を十分消化できるオフィス需要が発生したからだ。総務省によると、18年平均の就業者数は6664万人と比較可能な1953年以降で最多なうえ、人手不足を背景にシニアや女性の雇用も進んでいる。オフィス仲介大手、三幸エステート(東京・中央)の今関豊和市場調査室長は「『団塊の世代』の大量退職や社員の席を固定しないフリーアドレス制の定着によって床需要が減少すると当初は予想していたが、その想定は間違いだった」と明かす。
就業者数は増えたものの企業の人手不足は依然深刻だ。優秀な人材を確保するために好立地で高機能なオフィスに移転する動きも強まっている。このため19年に完成予定の都心の大型ビルは18年末時点でほぼ入居契約を完了している。三幸エステートによると、新ビルへの移転と同時に休憩スペースなどを広げ、社員1人あたりの床面積は減らさない企業が多いという。
堅調なオフィスビル市況の恩恵を受けるのが三井不動産だ。18年以降、東京の日比谷や日本橋、大手町などで大型ビルが相次ぎ開業する。新ビルは一般に、開業初年度は費用が先行して業績の足を引っ張るが、次年度以降は利益を押し上げるため「当面は安定的な利益成長が期待できる」(SMBC日興証券の田沢淳一氏)。
三井不動産ほどは新ビルの開業計画はないものの、オフィス需給の引き締まりから三菱地所の既存ビルも賃料の引き上げが進んでいる。同社は東京・丸の内などで優良ビルを多く保有する。不動産価格の上昇でビルの価値が高まり、賃貸不動産の含み益を考慮した修正PBR(株価純資産倍率)は0.6倍台に低下した。同倍率が0.7倍前後の三井不動産や住友不動産よりも株価の割安感は強い。
三菱地所株には買われる別の要因もある。今年6月に買収防衛策の更新時期を迎えることが材料視されているのだ。
買収防衛策に否定的とされる外国人株主は4割を超えており、株主総会で防衛策を続ける了承を得るのに必要な議決権の過半数に対して「当落線上」にある。防衛策を廃止すれば経営陣は株主を今まで以上に意識しなければならなくなる一方、更新したいなら株主の賛同を得られるよう自社株買いなどで株主還元を拡充する必要も出てくる。「いずれのシナリオであっても、投資家には三菱地所株を持っておいて損はないと考えが働きやすい」。モルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎氏は指摘する。
大量供給を乗り切った不動産大手2社だが、投資家の関心は移ろいやすい。足元の好調な株価を持続するためには、スポットライトを浴びている間に決算で投資家の期待を満たす業績を見せる必要があるだろう。