「もっといい会社あるかも…」 入社前から転職活動
若者の転職活動が早まっている。中には内定してすぐ次の職場を探す学生も出てきた。職場や仕事への違和感ばかりが理由ではない。理想のキャリアや安定した生活を手にするには、早くから転職の可能性を考え備えておかなければ安心できない――。転職活動をする若手に共通するのは、そんな不安だ。
内定直後、転職サイトに登録
「学生のうちに転職という選択肢を考えるのは当然です」。今春卒業予定で、大手商社への就職が内定している女子学生(22)は話す。内定を得た直後に転職サイトに登録。次に働きたい職場を探し始めた。
大手航空会社など6社の内定を得た。内定先は今のベストと満足している。両親は「入社3年は頑張って」と助言する。でも「3年は我慢なんて古い。自分がもっと活躍できる会社が見つかれば転職するつもり」。内定先は自ら思い描くキャリアを実現するための第一歩という位置付けだ。
大手メーカーに内定しているが、転職先を探し始めた男子学生(21)は「自分の力を試したい。同じ会社に長くいるより環境を変えて違う仕事をする方が大切だと思う」と語る。外資系企業に入社予定の男子学生(24)も「希望通り就職が決まっても、立ち止まってはいられない。常に市場価値を高める努力をしないと取り残される」と漏らす。
ハナマルキャリア総合研究所(東京・渋谷)の上田晶美代表は「早い時期に就活を終えてしまう学生が増えた。その弊害もある」と指摘する。短期決戦で活動時間が少なく「もっといい会社があったのでは」と不安に駆られる。そんな側面もあるのかもしれない。
会社が「学校化」 働き手は個人商店に
転職活動の早期化は、若手社員の間にも広がりつつある。人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)の20代向け転職サイト「キャリトレ」では新規登録会員に占める22~24歳の大卒者の割合が上昇。2017年4月は17%だったが、最近は30%前後で推移する。
就職後に改めて新卒扱いで活動する「第二新卒」の道を選ぶ人も少なくない。就職情報のマイナビ(東京・千代田)が既卒者を対象にした調査(18年秋時点)では、第二新卒が会員の54%を占め、前年を20ポイント上回った。東京都内のある私立大学の就職支援担当者は「第二新卒を含め、転職の相談に来る1、2年前の卒業生は多い」と明かす。
転職情報サイト「リクナビNEXT」の藤井薫編集長は「若い世代にとって会社は『学校化』している」と分析する。大企業でも安泰とはいえず、勤め先を変えるのが珍しくない時代。「社内で階段を上る出世よりも字義通り世に出る、つまり社外に出て通用するスキルや発信力を求めざるを得ない。働き手がそれぞれ個人商店になっていく」
SNS(交流サイト)で情報を集めやすくなったことも背中を押す。転職先から将来どのようなキャリアパスがあるのか。配属希望先の上司や同僚の雰囲気はどうか。スキルを学び、成果を上げられる環境か。新卒で入った広告会社からの転職を考えている女性(25)は「口コミならではの生々しい声や描写は参考になる」と強調する。
将来への不安がキャリアアップに駆り立てる
もちろん転職志向には濃淡がある。地域金融機関に内定している男子学生(23)は「本音で言えば定年まで勤めたい。ただAI(人工知能)時代で自分の仕事がどうなるか分からない。他の職場に移っても通用する人材になっておかなければというプレッシャーがある」と打ち明ける。
リクルートキャリア「就職みらい研究所」の増本全所長は「平成不況のなかで育った世代は安定志向が強い。ただ先行きが見通せない時代なので、汎用性の高い能力を身に付ける必要がある点も理解している」と解説する。安定志向と将来への危機感との間で揺れ動く姿が浮かぶ。
ミスマッチ、なお課題
「入社後3年で3割が辞める」傾向は、今も変わらない。「先輩のノリに違和感を覚えた」「ワークライフバランスを大切にしたい」など職場や仕事への不満を理由にした転職はなお多い。
全国求人情報協会によると、3年未満で転職した若手が元職場への入社前後でギャップを感じた点として「社内ルール・常識」と答えた人が51%。「上司の能力・資質」が47%だった。離職しなかった人と比べると、入社前には分かりにくい項目で差が大きい。こうしたミスマッチをどう減らすかが大きな課題だ。
企業も若手の転職や内定辞退に頭を悩ませる。ある大手メーカーの採用担当者は「就活生のSNSチェックや社員との交流は当然。選考中は適性検査(SPI)をもとに価値観の合いそうな面接官を選び、内定後のフォローにも時間を割く。それでも思うようには……」。感覚の違いに戸惑いを隠せない。
日本型雇用の特徴のひとつだった新卒一括採用の枠組みはいま、揺れている。働き方改革が進むなか、若者の転職意識が変わるのも必然なのかもしれない。
(河野俊、大城夏希)