新風吹き込む新人・小園 生まれ変わる広島の旗印
編集委員 篠山正幸
セ・リーグではV9巨人以来の4連覇を目指す広島。丸佳浩(巨人へ)が抜けた苦境を逆手に取るように、若い力を用いて、チームの刷新を図っている。高校出の新人としては異例のキャンプ1軍抜てきとなった小園海斗(18、兵庫・報徳学園)が、生まれ変わるチームの旗印となっている。
昨年、鳴り物入りで入団した中村奨成(広陵高)も、1年目の2017年に1軍出場した坂倉将吾(日大三高)も、春のキャンプは2軍からスタートした。高校出の選手に関してはじっくり育てる広島の慣行からすると、小園の1軍入りは相当のサプライズ人事だった。
多分に「チームは生まれ変わるんだ」とのメッセージを込めた政策的な狙いが含まれているようにもみえたが、どうやら、そうではない。
左打ちの小園。キャンプ初日のフリー打撃の相手は左投手だったが、苦にするでもなく、右に左にフェンス近くまで打球を飛ばした。「自分の思った通りのバッティングができたのはよかった」
左投手も右投手も苦にせず、広角に打てる打撃、遊撃の守備に走力を併せ持った小園への評価には高校の同期組の大阪桐蔭・根尾昂(中日)、同・藤原恭大(ロッテ)に勝るとも劣らないものがあった。ドラフトで4球団が競合した逸材は日々、器の大きさを示しつつある。
■自主トレで重点的に下半身鍛える
「体力が全然ない。体つきも細いので、鍛えたい」とキャンプ前日に話した。だが178センチ、83キロの体は見た目にそんなに細くない。
2日、キャンプの視察に訪れた松田元オーナーは「ケツがでかい」と感心した。その昔、野球選手の力はお尻をみればわかる、といわれた。
オーナーもそうした"お尻派"らしく、すっかり魅了されたらしい。小園自身、自主トレなどで下半身を重点的に鍛えたといい、実際、腰回りが大きくなったそうだ。鍛え抜かれた先輩たちとは、筋肉の質など「中身」が違うのかもしれないが、堂々たるものだ。
この素材にぐんぐん磨きをかけるのが、広島名物の打撃練習だ。現ヤクルトの石井琢朗コーチが"開発"したローテーション式の練習は創意に満ち、短時間で最大限のスイングができる仕組みになっている。
緻密に区画整理されたグラウンドで、3つのケージがあるフリー打撃やバント練習を含め、同時に12人の打者が練習できる。打者たちはベルトコンベヤーに載せられたようにして、順繰りにフリー打撃や、ティー打撃をこなしていく。その風景はさしずめ「3割打者養成工場」。
そのなかでも目玉となっているのはティーアップした球、あるいは近くから軽くトスした球を外野めがけて打つロングティーだ。
投手が投げるのではない「死んだ球」を遠くに飛ばすのは容易ではない。スイングの地の強さが試される練習だ。力自慢のサビエル・バティスタあたりは日南・天福球場の場外に放つが、主力クラスでも柵越えには苦労する。
この練習でも、小園は日々、進歩している。
東出輝裕打撃コーチの助言で、チームを代表する飛ばし屋の一人、松山竜平のフォームを参考にしている。下半身の使い方などを見習ったおかげで、第1クールの3日間のうちにも、飛距離が伸びていくようにみえた。しばしば柵越えをするようになる日も、そう遠くないだろう。
■監督「新人目立ってうれしい」
新人で1軍キャンプに参加しているのは小園のほか、投手の島内颯太郎(九州共立大、ドラフト2位)に、正隨(しょうずい)優弥(亜大、ドラフト6位)。
緒方孝市監督は第1クールの収穫として、新人のはつらつとした姿を挙げ「(主力に対して)全然見劣りしない。ここで主力ばかりが目立つようでは先行きも厳しい。新人が目立っているのはうれしいこと」と話した。
島内は大学の先輩の大瀬良大地同様、速球に豊かな可能性をうかがわせている。正隨のパンチ力は強打者の居並ぶ野手陣のなかでも光っている。
そして小園。高校出のたたき上げの多い広島にあって、先輩たちにとっても、入団したばかりの初々しかったころ、プロの「原点」を思い出させる存在になっていることだろう。小園らが吹き込む春の風が、チーム全体を若返らせている。