パレスチナの分裂鮮明 首相辞任で不安定さ目立つ
【ロンドン=飛田雅則】イスラエルと対立するパレスチナ自治政府のハムダラ首相が29日に辞表を提出し、ファタハとハマスという二大組織の間での分裂状態が鮮明になった。一方、パレスチナを支えてきたアラブ諸国はイスラエルとの関係改善を模索。米国が年内にもイスラエル寄りの中東和平案を公表する構えをみせるなか、パレスチナの不安定さが目立つ。
自治政府トップのアッバス議長はハムダラ氏の辞表を受理した。2013年から首相を務めたハムダラ氏はハマスとの和解に取り組んだが、不調に終わった。アルジャズィーラ(電子版)によると、ハムダラ氏はアッバス氏が率いるファタハの中央委員会に辞任勧告を受けており、事実上、解任された可能性がある。
新内閣はファタハが主導し、ハマスを除いた形で構成されるとの見方が浮上している。ファタハは自治政府の主流派で、自治区東部のヨルダン川西岸地区に影響力を持つ。対イスラエルでは比較的穏健な姿勢だとされる。自治政府本部は同地区ラマラにある。一方、イスラム原理主義組織ハマスは07年、武力で自治区西部のガザ地区を占領、実効支配を続けている。
17年10月にはファタハ、ハマスの双方が共同会見で和解成立を発表したが、合意した統一政府の樹立は実現していない。
ハマス側はファタハ主導の新内閣づくりを「ハマスをパレスチナ政界から排除する動きだ」と非難しているもようだ。
パレスチナの分裂状態が深まる一方、イスラエルは地域での影響力を強める。18年5月にはトランプ米政権が在イスラエル米大使館をエルサレムに移転。東エルサレムを将来の「首都」とみなすパレスチナ自治政府を無視し、イスラエルのエルサレム全域支配を追認した。米国は4月のイスラエル総選挙後、新たな中東和平案を発表する見通しで、同国寄りの内容になるとみられている。
イスラエルはトランプ政権を後ろ盾として国交のないアラブ諸国との関係構築に乗り出した。18年にはネタニヤフ首相がオマーンでカブース国王と会談した。イスラエル首相のオマーン訪問は1996年以来だ。アラブ首長国連邦(UAE)の柔道大会ではイスラエル選手が優勝すると、同国国歌が流れた。パレスチナとの連帯を標榜する湾岸アラブ諸国の公の場でイスラエル国歌が聞かれるのは極めてまれだ。
湾岸アラブ諸国を主導するサウジアラビアとは共通の敵であるイランへの対応を巡り、協調姿勢を強めているとされる。
パレスチナが分裂で弱まればイスラエルにとって好都合にみえる。だが武力行使に走りがちなハマスをファタハが抑えられない現状はイスラエルの懸念ともいえる。同国の元ニューヨーク総領事アロン・ピンカス氏は「パレスチナの分裂はイスラエルの安全保障の脅威でもある。(中東)和平を巡る交渉の再開はさらに遠のく」と指摘する。