高知競馬場で感じた若手騎手たちの心意気
高知競馬場で1月22日、新人騎手たちの熱い戦いが繰り広げられました。第33回全日本新人王争覇戦競走。中央と地方のデビュー5年以内の騎手が、2レースの合計ポイントによって順位を争います。中央からは武藤雅、横山武史(ともに美浦)、富田暁(栗東)の3人。地方からは岡村健司、仲野光馬(ともに船橋)、藤田凌(大井)、桜井光輔(川崎)、塚本弘隆(金沢)、渡辺竜也(笠松)、田村直也、永井孝典、長谷部駿弥(いずれも園田)の9人が参戦しました。
レースに先立って行われた出場騎手紹介式で、司会を務めさせていただきました。12人の若手ジョッキーが横一列に並んだ姿には、やはり初々しさを感じました。式では代表として武藤、塚本両騎手がファンに向けて宣誓を兼ね、力強くあいさつしました。私自身、地方競馬で公式の仕事をするのは初めてでしたし、中央競馬でもファンの前での騎手紹介式は日本ダービーをはじめ年に数回しかありません。騎手紹介式という機会がめったにない仕事に携わることができたのは新鮮でした。
■2レースの合計ポイント競う
今回行われた2戦はともに距離1400メートル。1400メートルといえば、中央になじんでいる方なら、コーナーが2つだけのレースをイメージされると思います。しかし、高知は1周1100メートル(直線は200メートル)という地方でも小さい部類のコース。4コーナー奥の引き込み線からスタートして、短い距離でコーナーを4回も回るので、騎手も馬も器用さが求められます。
迎えた第1戦。好スタートを切った藤田騎手のアブソルーターが序盤の先行争いから徐々に抜け出し、2馬身差で逃げ切りました。中位から追い込んだ仲野騎手のレイカバドが2着。先行していた塚本騎手のトーアバカラが3着に粘りました。続く第2戦は、先手を主張して単騎逃げに持ち込んだ岡村騎手のヘキサゴンが3馬身のリードを保って楽勝。岡村騎手はゴール前、股下から後ろを見るほどで、余裕の勝利でした。3~4番手を追走した武藤騎手のノーブルジャーニーが2着に入り、渡辺騎手のクインズオレンジが食い下がって3着。結局、第1戦を勝ち、第2戦で4着。合計65ポイントを獲得した大井の藤田騎手が優勝。大井競馬所属としては、一昨年の藤本現暉騎手以来、2度目の優勝となりました。2位は船橋の岡村騎手、中央の武藤騎手が3位でした。
■優勝騎手の冷静な姿に好感
優勝した藤田騎手にお話をうかがいました。「優勝できたことはうれしいのですが、2勝して帰るのが目標だったので、そこは悔しい気持ちが残りました」という第一声。高い目標を持っていたことがわかります。第1戦は思い描いていた通りのレースができたそうですが、第2戦は「判断ミスというか、そういう部分があったので、反省点が多いかなという感じです」と振り返っていました。不慣れな高知でしたが、「全然乗りにくく感じなかったですし、昨年、短期(免許騎乗)で佐賀に行っていて結構、似ている部分があったので、それは生かせたのかなという気はしています」。コースの大きさにそれほど差がない佐賀競馬場での経験が、今回の優勝に結びついたのかもしれません。
将来については「技術をつけていくというのはもちろんですが、自分は今それよりも、周りから信頼を得るというか、人間としてしっかり成熟していけるようなジョッキーになりたいです」と締めくくりました。全国での戦いを制しても手放しで喜ばず、冷静に現状を分析する藤田騎手の姿に好感を持ちました。今後のさらなる活躍を期待したいです。
個人的に注目していたのは中央の富田騎手です。富田騎手は、デビュー前の栗東トレーニングセンターでムチの贈呈式の際、ラジオ番組用にインタビューをさせていただいたことがあります。一回インタビューをすると、その人の顔は当然、印象に残ります。初騎乗以来、富田騎手のレースぶりには注目していました。2年近くたって、再び富田騎手に今回のシリーズにかける思いを聞くことができました。勝負の厳しさを知ったのか、デビュー前の爽やかな好青年という印象とは少し変わりましたが、「絶対優勝して、富田暁はまだまだやれるんだというところを見せたい」と頼もしいコメントを残していました。
第1戦ではイージーライドに騎乗し、道中3番手から勝負どころで積極的に動く競馬を見せました。ゴール前は失速して5着でしたが、次を期待させてくれる騎乗ぶりでした。第2戦で騎乗のスティルフルには昨年7月、富田騎手がヤングジョッキートライアル高知でも騎乗し2着に入り、同じ舞台を経験していたのです。今回のシリーズで、他の騎手はすべて初コンビでしたが、2度目のコンビとなる唯一のケースとなりました。一段と期待が高まる中でスタート。しかし、序盤から最後方を進み、見せ場をつくれず9着に終わりました。富田騎手は最終的に10位……。せめて表彰台には上ってほしいと思っていましたが、これにめげずに頑張ってほしいです。
■実況の大先輩と初対面
表彰式では、高知競馬の実況を長く担当されている橋口浩二アナウンサーとお話しする機会もありました。実況アナウンサーの大先輩にあたる存在で、その声は以前から拝聴していただけに、とても光栄でした。そのとき思い出したのは、我々が待機していた来賓室のドアに「廊下はお静かに」と書かれていて、「ファンの皆様に、橋口アナウンサーの実況をクリアにお届けするため、特にお子様連れのお客様、ご協力をお願いいたします」との文章が添えられていたことです。本人にその話をすると、「長年私一人で(実況を)やってきましたからね……」と苦笑いしていました。
競馬場側は「実況」というよりも、橋口アナウンサーという存在に特別な配慮をしているのかもしれません。一時は存続の危機に陥った高知競馬場ですが、近年の売り上げ急回復で元気を取り戻しています。激動の時代とともに橋口さんは歩まれてきました。ハルウララが全国に知られるきっかけをつくったのも橋口さんといわれています。橋口さんの実況は高知競馬の"声"といっても過言ではありません。人の耳に触れる仕事の大切さを改めて感じました。そんな橋口さんの声を聞きながら、私は競馬場を後にしました。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 米田元気)