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総合格闘技の2人のスター、日本で「デビュー戦」

ONEチャンピオンシップ、3月末開催

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2018年大みそかのフロイド・メイウェザーと那須川天心の対戦が話題になった格闘技界。3月31日にはアジアで急成長する大会「ONEチャンピオンシップ」が東京・両国国技館を舞台に日本で初開催される。注目は2人の元世界王者。総合格闘技の世界最高峰、米UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)を離れ、ONEに参戦するデメトリアス・ジョンソン(32)とエディ・アルバレス(35)だ。

昨年10月、格闘技界を驚かすビッグニュースが飛び込んできた。UFCで全階級を通じて歴代最多の防衛記録を樹立したジョンソンのONE移籍だ。格闘技ファンなら名前を知らない者のいない実力者である。

「変化がほしかったんだ。UFCとはまだ4試合の契約が残っていたけれど、自分のコーチがONEの役員を務めていることもあった。オファーをもらったとき、このチャンスは避けて通れないと思ったよ」

ジョンソンは決断の理由をそう語る。今回の移籍は、ONEを主戦場にしていたベン・アスクレン(米国)との「トレード」という形でも話題を呼んだ。格闘技界では珍しい大掛かりな移籍劇は、それだけジョンソンが大物である証しでもある。

「DJ」の愛称で親しまれるジョンソンは米ケンタッキー州出身。高校でレスリングを始め、11年にプロに転向した。翌年からUFCに参戦。12年に新設されたUFCの最軽量級であるフライ級(上限56.7キロ)の初代王者になり、昨年8月に王座を明け渡すまで11連続防衛を果たした。

リング内外の潜在能力にも魅力

それほどの実力者が格闘技の本場、米国から主戦場をアジアに移すことに抵抗はなかったのだろうか。人によっては「都落ち」ととらえるだろう。ただ、ジョンソンはそんな見方を否定する。

「そういう考えも理解はできるけれど、ONEはアジアでしっかりした基盤をつくっている。それにミルコ・クロコップ、バンダレイ・シウバ、エメリヤエンコ・ヒョードルら米国で活躍したファイターはみんな日本で有名になったんだ」。かつてのK-1やPRIDEといったイベントが世界の格闘技をリードしていた時代を、子どものころから見てきたというジョンソンにとって、日本に来ることは決して都落ちではないのだという。

ONEのリング内外における潜在能力にも魅力を感じている。一つはアジアにルーツがある様々な格闘技の選手が集まっている点だ。「ボクシング、キックボクシング、ムエタイ、柔術など、ONEには全ての格闘技がある。質の高いアスリートが同じ旗の下に集っている感じがするんだ」。さらに重量級や中量級の人気が高い米国に対し、アジアは軽量級の選手層が厚く、ファンの人気も高いこともジョンソンにとっては魅力なのだろう。

今回のオファーが「とても好条件だった」というように、ビジネス面でもONEの可能性を感じている。「北米ではUFCにはかなわないかもしれないけれど、アジアの市場はONEが押さえているといってもいい。世界138カ国で放送され、17億人がテレビやインターネットで視聴しているんだろ? ビッグビジネスだし、世界規模のスポーツプロダクトだと思っているよ」

3月31日のONEデビュー戦では日本の若松佑弥とフライ級(上限61.2キロ)のワールド・グランプリ・トーナメント1回戦で戦う。ジョンソンは過去に2度、UFCで日本選手と対戦し勝利を収めている。カリスマ的な人気を誇り、昨年急逝した山本KID徳郁さんと、現在も日本のトップとして活躍する堀口恭司だ。

「日本選手はとにかくタフ。そして、スキルがある。何か一つのことを突き詰めてやっている印象がある」とジョンソン。ONEとは複数試合の契約で、ここでキャリアを終える覚悟もあるという。レスリング、柔術、キックボクシングなど様々な格闘技を高いレベルで習得した万能ファイターがどんな戦いを見せるか楽しみだ。

米国の主要2団体のベルトを両方手にした初のファイターがアルバレスだ。ONEのデビュー戦を前に「これは王の帰還でもあり、新しい冒険の始まりでもある。自分は1つの団体で王者になるのではなく、全てのベルトがほしいんだ」と鼻息が荒い。

米国の後発団体「Bellator MMA」(ベラトール)では14年まで計3年間、ライト級(上限70.3キロ)の王座に君臨。同年にUFCに移ると、2年後にはこちらのライト級も制した。

「成長するための新しい挑戦」

再び新団体に移った理由は「総合格闘技の中でも最大規模の金額が保証されている」という金銭面の魅力だけではない。「自分が成長するために新しい挑戦がしたい」という純粋な思い、そしてアジアへの憧憬があったのだという。

故郷は米フィラデルフィアの犯罪多発地帯だったが、ほかにはない魅力も持ち合わせていた。「ボクシングジムがたくさんあった。映画『ロッキー』の撮影現場だったからね。野球やバスケットボール、アメリカンフットボールではなく、みんな格闘技をやりたがった」。アルバレスも8歳のときからグローブをはめ、道路で友人と拳を交えた。「車が来たらいったんやめるけれど、時間無制限で戦う。本当に楽しかった」。ほどなくジムに正式に入門。高校ではレスリングをやり、格闘家としての幅を広げた。

文字通りにストリートでのファイトに明け暮れていた少年が目を輝かせていたのが、日本の格闘家だった。自身と同じ中軽量級でPRIDEやUFCのリングに上がっていた川尻達也、宇野薫は「ずっと憧れていたヒーロー」と話す。

専業の格闘家となって日も浅い08年、彼らと同じ舞台に上がる機会が訪れた。PRIDEの後継団体「DREAM」と契約して来日。川尻とも戦い、勝利した。「日本に来ることが夢だったからとてもワクワクした。(ONEに移籍して)また日本やアジアで試合を見せられるのがうれしい」と笑顔を見せる。

新天地の可能性を感じたことも移籍の理由だという。「ONEの選手の技術は米国の団体より上だと思う。ムエタイ、パンクラティオン、柔術。一つを極めている選手が多く、その技巧には美が感じられる。米国ではオールラウンダーが重宝されるが、個々の技術はそこまで高くない。観客にはそういうところを楽しんでもらえる」。自身のルーツであり「一番の武器」と話すパンチの神髄も披露できるということだろう。

11年にシンガポールで誕生した後、急成長を遂げてきたONE。競技ルールにも新基準を持ちこんでいる。減量時の「水抜き」の禁止だ。階級制の格闘技では試合の数日前から水分の摂取を減らして体重を落とすことが普通。減量効果は高い一方、脱水症状など体への負担は大きい。近年、ボクシングで相次ぐ体重超過による計量失敗も、この減量法に頼ったケースが多い。

「これまでは試合前の2日間で16~17ポンド(約7キロ)の水を抜き、154ポンド(約70キロ)まで減らしていた。健康によくない方法だし、筋肉の伸縮も鈍くなっていた」と話すアルバレスは、新ルールを歓迎する。

「これからはレベルの高いパフォーマンスを見せられる。KOも増えると思う。選手は苦しまなくて済むし、主催側も選手の体の心配をしなくていい。ファンも最高のパフォーマンスを見ることができる。賢いやり方だと思うよ。ONEは5年でUFCやベラトールというメジャー団体に肩を並べるだろう」

東京大会ではライト級(上限77.1キロ)のワールド・グランプリ・トーナメント1回戦で実力者のティモフィ・ナシューヒン(ロシア)と対戦する。「ハイペースな試合になると思う。結果は分からないけれど、彼のような危険な相手と対峙するときの自分は、派手なKOがついてくることが多い」とにやり。自身とONEにとっての第1ラウンドで、歴史に残るパンチを放つことはできるか。

(山口大介、谷口誠)

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