満票で米野球殿堂入り、リベラ氏は常勝ヤ軍の象徴
スポーツライター 杉浦大介
1月22日に今年の米野球殿堂入り選手が発表され、元ヤンキースのマリアノ・リベラ氏が資格1年目で選出された。史上最多の652セーブを挙げたリベラ氏の殿堂入りは、すべての関係者の予想通り。特筆すべきは425人の全投票者がリベラ氏に票を投じ、史上初の満票選出だったことだ。
「(この栄誉は)私の想像を超えています。殿堂入り選手として考慮されることだけでも名誉なのに、満票というのはすごいことです」
選出発表後、リベラ氏が電話会見で残したそんなコメントがこの出来事の意味を物語る。殿堂入りは全米野球記者協会に10年以上在籍した記者による投票で決まり、選出ラインは75%。これまでの最高得票率は、2016年に殿堂入りを果たしたケン・グリフィー・ジュニアの99.32%だった。ベーブ・ルース(1936年に95.13%)やカル・リプケン・ジュニア(2007年に98.53%)でもできなかったことをリベラ氏が成し遂げ、歴史は変わったことになる。
この偉業は大きなニュースとして伝えられたが、必ずしもサプライズではなかった。リベラ氏は95年からヤンキースで19シーズンにわたって活躍し、セーブ王3度、オールスター選出13度。必殺のカットファストボールを武器に、"不世出のクローザー"の呼称をほしいままにした。
ゲーム終盤に主に1イニングを投げるだけのクローザーの価値に関する議論が尽きることはない。それでも抑えの切り札としてのリベラ氏の真価が疑われたことはない。その理由は新陳代謝の激しい米球界で20年近くも支配的な力を保った息の長さと、何より、大舞台での異常なまでの強さ。ポストシーズンでは通算96試合に登板し、141イニングを投げて42セーブ、防御率0.70。驚異的な成績は群を抜いている。
■ヤンキース黄金期を支えた存在感と支配力
「満票での殿堂入り、心よりお祝い申し上げます。私が後ろで守備についていて、どんな緊迫した試合でも最も安心して見ていられるピッチャーでした。また、野球選手というだけでなく、一人の人間として尊敬しております」
今回の殿堂入り後、元チームメートとして一緒に09年の世界一を経験した松井秀喜氏の言葉は心がこもって聞こえた。勝負強く、人格者でもあるリベラ氏がクローザーとして控えているというだけで、同僚たちは安心感を感じたという。リベラ氏の現役中、ヤンキースは16度もプレーオフに進み、5度の世界一を達成。投げるイニングが少なかったとしても、リベラ氏の存在感と支配力がなければヤンキースの黄金期はあり得なかったことは間違いあるまい。
昨今のメジャーではブルペン強化が必勝法のようになっているが、その発端の一人となったという意味でも存在価値は大きい。13年に現役を終えたリベラ氏は、今回の"満票"で再び歴史に名前を刻みこんだ。これから先も、パナマ出身の英雄の名声は永遠に語り継がれていくことだろう。