「早熟化」が活力そぐ? 2歳戦強化への懸念
年明けから春にかけ、クラシック出走をかけた3歳世代による戦いが本格化していく。今年に入り、3歳の重賞はすでに3つ(シンザン記念、フェアリーステークス、京成杯、いずれもG3)を消化した。ただ、どのレースも出走馬の水準はそれほど高くなかった印象だ。近年、2歳秋に行われる重賞が増えた影響で、有力馬が分散してしまうことが背景にある。
日本中央競馬会(JRA)は2歳戦を充実させようと、2014年に2歳重賞の数を増やした。王者決定戦だったG1、朝日杯フューチュリティステークス(芝1600メートル)を中山から阪神に移し、阪神芝2000メートルのG3だったラジオNIKKEI杯2歳ステークスを中山に移す形で、2歳中距離路線の王者を決めるホープフルステークス(G1、当初はG2)を設けた。3歳春のクラシック、皐月賞(G1)に直結するレースをつくろうと、同じ中山芝2000メートルの2歳G1を置いた格好だ。
これらのG1に向けた路線の整備を狙い、オープン特別だったいちょうステークス(東京芝1600メートル、現サウジアラビアロイヤルカップ、G3)と京都2歳ステークス(G3、京都芝2000メートル)も重賞に格上げ。2歳重賞の数は13年の12から14に増えた。
■出走馬分散、レースの質低下
ただ、その分、出走馬が分散。一つひとつのレースの出走頭数が減ってしまった。1999年から2018年の20年を振り返ると、2歳重賞の出走頭数が10頭未満となったケースは13年までは6回しかなかった。14年以降はすでに11回を数える。18年は出走頭数が1桁の2歳重賞が5つもあった。特に京都2歳Sは格上げされた14年以降、8、12、10、9、9頭立てと少頭数が常態化している。
年明けの3歳馬による重賞も例年12月に行われる2歳G1の数が増えたことなどからメンバーの水準が下がっている。出世レースとされるシンザン記念(京都芝1600メートル)の過去10回をみると、10~13年までは毎年、中央で2勝以上を挙げた馬が5頭以上出走していた。だが14年以降は最多で4頭(17、19年)にとどまる。最少は16年の2頭だった。18年のこのレースの優勝馬、アーモンドアイ(牝4)のように、1勝馬でも高い能力を持つ馬もいるため一概にはいえないが、このレースまでの勝利数という指標でみるとレースの質は低下しているといえる。
JRAは近年、「ダービーからダービーへ」という言葉を掲げ、3歳馬の頂点を決める日本ダービー(G1、毎年5月末~6月初めに実施)を中心としたサイクルをつくろうと、レース番組に変更を加えている。12年からは2歳新馬戦の開始時期をそれまでよりも2週早め、ダービーの翌週からとした。2歳重賞を充実させて、若いうちから馬に箔をつけさせるチャンスを増やしたのもこの一環である。
一方で、力量が劣ると判断された馬を早期に退出させる施策も強化し始めている。今年からは3歳未勝利戦の終了時期を1カ月前倒しして、夏の新潟、小倉、札幌開催の終わりまでとした。3歳以上の未勝利馬で9着以下が3回続いた馬は、2カ月間平地競走に出走できない制限も加えた。馬の能力に見切りをつける時期を早め、代わりに新たな若駒を入れて、馬の回転を早める狙いだ。
2歳重賞の出走頭数が少ないのは、3歳未勝利馬が秋まで残っているため、2歳馬の入厩に影響を与えているからだとJRAはみている。未勝利戦終了時期を早めるなどで、3歳未勝利馬と2歳馬のスムーズな入れ替えを進め、2歳重賞の出走馬増にもつなげようとしている。
■早くから課す強い調教の問題点
だが、こうした「早熟化」ともいえる施策に問題はないのか。確かに世界的な潮流でみても、馬に投資した資金の回収を早めるために、成長の早いスピードタイプの馬を育てる傾向が強まっている。近年では競走馬の生まれる時期を人為的に早めたり、以前よりも早い段階から強い調教を課したりするなど、競馬界全体で早熟化への取り組みが進められている。
ただ、2歳の上場馬を実際に走らせた後に競売にかける「トレーニングセール」が盛んな米国など、海外では若駒に強い調教を課すことへの問題点が長年、指摘されてきている。こうした競り市では速いタイムを計時した馬が高値で購買されるケースが多い。骨格も固まっておらず、精神的にも未熟な段階で無理に速いタイムを出させることによる故障リスクや、その後の競走生活への影響を懸念する声は根強い。2歳戦の早期開始によって、早いうちから強い調教を課される近年の日本の馬にも同じことはいえる。
成長途上の若駒に強い調教を課すのは「虐待」だと主張する動物愛護団体もある。レースなどでの馬の苦痛をできるだけ軽減させようとする考え方である「馬の福祉」に関する国際的な議論では、2歳馬によるレースのあり方が、ムチの使用や薬物の規制とともに大きなテーマの一つとなっている。
こうした議論で先を行く海外の場合、一握りのレースを除いては賞金が安い。早い段階で大きなレースを勝たせて引退させ、種牡馬として稼いだ方が効率的なため、早熟化を進めてきたという事情がある。
ただ、日本の場合は全体的にレースの賞金が高く、古馬になってから長く現役を続けても稼げる可能性は海外よりも高い。ダービーももちろん盛り上がるが、国内の最高賞金レースは4歳以上の古馬が中心となって争うジャパンカップと有馬記念(いずれもG1、1着賞金は3億円、ダービーは2億円)である。競馬ファン以外からも注目を集める有馬記念は馬券の売り上げも最も多い。古馬の有力馬の層が厚くなる方が興行的にもプラスになると考えられる。
17年のダービー馬で昨年の天皇賞・秋を勝ったレイデオロ(牡5)を管理する藤沢和雄調教師は、ダービー後に気をつけたことについて「(ダービーの)2400メートルを走った後の反動が大変。過去にダービーを目指した馬が傷んでしまったこともあった。疲れを取って上手に体調を整えられればと思った」と語った。それだけ馬への負担は大きい。実際、過去10年のダービー馬で4歳以降にG1を勝ったのはレイデオロを含め3頭しかいない。早熟化を進めすぎると、日本競馬界全体の活力をそぐ恐れもある。
(関根慶太郎)