EU、英離脱延期の容認論広がる
交渉は予断許さず、仏など「合意なき離脱」へ備え加速
【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)で、英離脱の延期を容認する声が広がってきた。3月29日の離脱まで残り時間が少なくなる中、英側が打開案を練る時間を稼ぎ、経済に混乱を及ぼす「合意なき離脱」を避ける狙いだ。しかし延長してもメイ政権が英議会とEUの双方を納得させられる代替案を示せる保証はなく、交渉の先行きは不透明。各国は混乱回避への備えも急いでいる。
EU離脱の手順を定めたEU基本条約(リスボン条約)では、EU首脳会議の全会一致で離脱日の延期が可能とされている。メイ首相は繰り返し延期を否定するが、メイ政権とEUが合意した離脱案が15日、大差で否決されたのを受け、「合意なき離脱」を避けるには延期は避けられないとの見方が強まっている。
メルケル独首相側近のアルトマイヤー経済相は「EUは英国に追加の時間を与えるべきだ」と主張する。EU内では、英国から離脱延期の要請があれば、応じるべきだとの声が目立ち始めた。
ただいつまで延期すべきかなど具体論を巡っては温度差がある。延期をEU側が検討する上で難題となるのが5月23~26日に迫った欧州議会選挙だ。すでに3月29日の英離脱を前提に加盟国への議席配分も法的に確定し、準備が進んでいる。
スペインのボレル外相は延長しても「議会選前まで」と表明する。あるEU加盟国大使は最長でも7月2日の選挙後最初の欧州議会招集日までと語る。それを超えて延長すれば「まだEUに残留しているのに、英国を代表する欧州議員がいない状態はEU法に反する可能性が大きい」からだ。
ただメイ政権が代替案を決められず、2度目の国民投票に向かう場合、最長7月2日までの短期間の延長では時間が不足する公算が大きい。国民投票には必要な法律の制定などの準備に約半年かかるとされている。
このため英紙タイムズは16日、EU高官の話として、離脱を20年まで大幅に延期する「法律上の手段」をEUが模索していると伝えた。しかし、その場合は英国を欧州議会にどう参加させるかなどの法的な問題を解消する必要がある。
延長しても、英国がEUと合意できる代替案でまとまれるのかという不信もEU側では根強い。延長に柔軟姿勢を示すドイツでもマース外相は「ゴールへの道がなければ無意味だ」と強調する。英国が従来方針を転換して離脱後もEU単一市場への残留を受け入れることや、2度目の国民投票の確約などが離脱延期の承認のEU側の条件になるとの観測もある。
英国の混迷が続けば、EUから離脱延期の承認を取り付けられず、「合意なき離脱」に陥るリスクもある。このため英国と経済的な結び付きの強い国を中心に、混乱回避への備えを加速する動きも目立ってきた。
フランスでは17日、合意なき離脱のためのプラン発動を決定。仏国内の港や空港に5千万ユーロ(約62億円)を投じ、税関手続きの突然の復活による渋滞などに対応するため、港に駐車場を整備したり、検査にあたる職員確保などに充てる方針だ。
オランダでも政府が英国と取引している企業向けにインターネット上の相談窓口を開設。「合意なき離脱」に備えるためのチェックリストも公表した。港などでの動物検疫にあたる職員を確保するため、南欧や東欧でも獣医を急募しているという。
島国の英国が陸続きで国境を接するアイルランドは18年12月に約130ページにわたる緊急対応策を公表。同国の輸出入は英国経由のルートへの依存が大きく、医薬品や食料品の供給網の混乱回避や在庫の確保に力を入れている。
EUの執行機関である欧州委員会によると、加盟国の「合意なき離脱」への備えを支援するため、EU高官が英を除く27加盟国すべてを巡回中で、準備が十分に進んでいるかなどを評価している。