マネーフォワード「20年度まで投資先行」の勝算
家計簿アプリや法人向け会計サービスを手がけるマネーフォワードは2020年11月期まで投資を優先させる計画を明らかにした。19年11月期の連結売上高は前期比6割前後増える見通しで、市場予想を上回った。広告宣伝費や人件費がかさみ赤字幅は最大3倍に膨らむが、先行投資を続けて成長を目指す。16日の終値は前日比13%近く上昇し、市場も一定の評価をしている。
「クラウド事業を中心に人材やマーケティングへの投資を大幅に拡大する」。15日の決算会見で辻庸介社長はこう強調した。18年12月に海外の機関投資家から公募増資で調達した約66億円の8割強をクラウド事業に投じる計画。勤怠管理などの新サービスや販売体制の強化で顧客基盤を広げる。正社員数は5割増の約600人に増やす計画だ。
先行投資を続ける理由は、マネフォのビジネスモデルにある。ネット経由でサービスを提供する「SaaS(サース)」は販促費などがかさむ一方、料金をサブスクリプション(継続従量課金)で得るため、利用者が増えるにつれて中長期で収益性が高まるのが特徴だ。17年9月の上場から、辻氏が「中長期的なキャッシュフローの最大化を図る」と一貫して強調するのはこのためだ。
18年11月期の最終損益は8億1500万円の赤字と前の期とほぼ同水準だった。一方で、法人向けのクラウド事業を中心に売上高は59%増の45億円と高い成長を続けている。直販体制の強化で従業員が1000人を超えるような「顧客単価が高い大規模企業への導入が加速している」(辻氏)という。15日の決算会見では、キャッシュフローをベースとするEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)で21年11月期に黒字化する目標を初めて明らかにした。
SaaSをめぐっては顧客情報管理(CRM)システム最大手のセールスフォース・ドットコムを筆頭に米国で浸透している。国内でも人手不足が進む中、業務効率化に需要は高まっている。マネフォの競合であるfreee(フリー、東京・品川)や人事労務のSmartHR(スマートHR、同・千代田)など有望なスタートアップも利用者を増やしている分野だ。
もっとも、世界経済に不透明感が漂う中、マネフォの計画通りに行くかは不安の声も聞かれる。初期導入コストが低いSaaSは一般的に不況の影響を受けにくいとされるが、業務を効率化する社内ツールは「業績低迷で導入を最初に先送りする分野」(証券会社幹部)との見方もある。顧客拡大へ赤字を続けられる時間は決して長くない。
(企業報道部 駿河翼)