「CASE革命」主役は素材 化学メーカーなど競う
自動車の先端技術展「オートモーティブワールド」とエレクトロニクス開発・実装展「ネプコンジャパン」が16日、東京ビッグサイトで開幕した。「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と言われ、自動車産業の革命を担う新技術が注目される。展示会では鉄・非鉄、化学などの素材メーカーが革命の主役とばかりに独自技術を訴求した。
軽量化で鉄と複合材が激突
電動化時代は電池やモーター、インバーターが「三種の神器」と言われる中核技術だ。だが、それだけではガソリン車並みの長距離走行に現状では到達できない。カギを握るのが、車両の軽量化。会場では軽量化技術で攻防が見られた。
「鉄でも軽量化できる」。新日鉄住金の進藤孝生社長は展示会でCASE時代でも鉄が主役と訴えた。実は同社が自動車関連の展示会に出展するのは初めて。「素材を宣伝するだけでなく(設計や加工方法の提案など)ソリューションも含めて顧客に解決のヒントを提案したい」と話す。
新日鉄住金は鉄だけで従来より3割軽量化できる技術の組み合わせを提案した。「Nセーフ オートコンセプト」と呼び、同社グループの素材や設計技術を組み合わせ、鉄だけでできる軽量化技術として立ちあげた。
具体的には薄くて強度も高い「高張力鋼板(ハイテン)」の比率を高めたり、リチウムイオン電池のケースなど、現在はアルミが一般的な部材にも鉄を使うことで軽く、加工しやすくなることを訴求する。
アルミは重さが鉄の3分の1と軽いが、加工が難しく鉄よりコストが高い。新日鉄住金は車体やエンジン、電池回りを中心に鉄を使いつつ、加工の工夫でアルミよりも軽くし、低コストで耐久性も高められるという。
軽量化素材の対抗馬として浮上しているのが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)だ。積水化成品工業は、CFRPと発泡体を組み合わせた自動車の外装部品の「STレイヤー」を展示した。CFRPの持つ強度の高さに加え、発泡体の形成の自由度を組み合わせることで、様々な意匠の外装品が作れるという。
積水化成品はCFRPの系製品でホンダの軽スポーツ車「S660」用のフェンダーなどの外装キットを販売する実績を持つ。さらに軽量で自由度が高いSTレイヤーの市場投入を目指す。
電池分野では次世代のリチウムイオン電池として有望視される全固体電池が注目された。全固体電池はリチウムイオン電池で従来液体である電解質を固体にした。液体電解質の場合に起きやすいショートや電池の液漏れなどの危険性を低減するとして技術開発が進む。
非鉄大手の三井金属は全固体電池の新材料を展示した。リチウム、リン、硫黄などを原料とする固体電解質の開発にめどをつけたという。同社によると、独自の焼成方法により量産性に優れている点が特徴だという。
全固体電池の他の主要部材である正極材、負極材も合わせて開発しており、全固体電池を使用した量産車が登場する2025年ごろに電動車への採用を目指す。
つながる車を素材が支える
19年は次世代通信規格「5G」の元年と言われる。自動車でも5Gで情報をやりとりする未来は遠くはない。ただ、5Gでデータ処理量が増えると、半導体の熱対策が重要となる。ただでさえ、自動車は過酷な環境でも安全でなければならない。CASE時代の熱対策でも素材メーカーが「黒子」として存在感を高めようとしている。
AGC(旧旭硝子)子会社のAGCネルコは、次世代通信規格「5G」に対応したプリント基板のベースになる銅張積層板を展示した。
EVに必要不可欠な高機能な半導体素材を載せる基板として活用が見込まれる。銅張積層板は銅箔で絶縁体のコア材(樹脂)を挟み込んで作る。従来はコア材にフッ素樹脂の一種のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を活用した基板が多かったが、回路を形成した後に積み重ねて加工するのが難しいという欠点があった。
AGCネルコが展示した製品「メテオウェーブ」シリーズは、ポリフェニレンエーテル(PPE)をコア材に活用することで積層しやすくした。毎秒25ギガ~100ギガビットの通信が可能。PPEは熱にも強いため、大量の半導体が消費される自動運転車でも熱対策として活用できるという。
自動運転車の車内空間を変える
ドライバーがハンドルを握ったり、アクセルを踏み込んだりすることがなくなる完全自動運転車の近い将来の登場が見込まれる。新たな競争軸となりそうなのが、車内空間の魅力だ。乗員に運転状態や交通情報、娯楽などをどのように伝達するか。新たな素材の登場が期待される領域だ。
デクセリアルズは、フロントガラスにレーザーなどで情報を表示する「ヘッドアップディスプレー(HUD)」で活用できる低反射フィルムを展示した。フィルムの表面にガの目のように微細な凹凸を加工。映し出される情報以外の光の反射を減衰させることで、HUDの視認性を上げることができるという。
低反射フィルムがないものは会場の照明が反射して白っぽく見えたが、フィルムを貼り付けるととたんにクリアになった。「車内ディスプレーなどにも活用が進む」(同社)という。
自動車産業の裾野は広い。完成車メーカーの首脳の多くは「百年に一度の技術革新の時代が到来した」と述べ、変化への対応に挑んでいる。この変化に先駆けて対応すれば、生まれる商機は大きい。素材メーカーの新技術のアピール合戦は激しくなりそうだ。
(星正道、川上梓、矢野摂士、鈴木泰介)