シリア駐留米軍の撤収開始、中東の動揺拡大
【イスタンブール=佐野彰洋、ワシントン=中村亮】内戦が続く中東のシリアに駐留する米軍が撤収を始めた。CNNなど米欧の有力メディアが11日、米軍当局者の話などとして伝えた。
トランプ米大統領は2018年12月、シリア駐留の米軍を撤収させると表明しており、これに応じた措置とみられる。急な米軍撤収が地域に軍事的な空白を生み、動揺が広がる可能性が浮上してきた。
CNN(電子版)は、この数日の間に米軍の地上部隊の一部が撤収したと報じた。シリア人権監視団(英国)も米軍が10日午後、北東部の基地から戦車などの撤収を始めた事実を確認した。
撤収完了までの日程など詳細は明らかでない。
ポンペオ米国務長官は10日のカイロでの演説で「米国はテロとの戦いを終えるまで(シリアなどから)退去することはない」と述べた。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を続け、中東への関与をやめない姿勢を示したが、周囲ではすでに米軍撤収後をにらんだ動きが相次いでいた。
シリア駐留の米軍は約2000人。撤収は不可避とみて動き出していたのが、米軍の支援でISと戦ってきたクルド人勢力だ。緊張関係にあったシリアのアサド政権に接近。北部の要衝マンビジュ近郊に同政権やロシアの部隊を招き入れた。8日にはロシア軍との合同パトロールを実施した。
クルド人勢力を隣国トルコは国内のテロ組織の一部とみなしている。10日には同国のチャブシオール外相が「国家の安全を脅かす組織に必要な行動をとる」と明言。米国の同意がなくても、クルド人勢力への軍事攻撃に乗り出す構えを示した。
ポンペオ氏が撤収表明を修正するような演説をしたのは、トランプ政権のイラン封じ込め策との矛盾を恐れたからだ。イスラム教シーア派政権のイランは米同盟国である同スンニ派政権のアラブ諸国やイスラエルと対峙する。ロシアとは協調して米国と鋭く対立する。
シリアから米軍が撤収すれば、イランの革命防衛隊や、その傘下のシーア派武装組織の行動の自由度が一気に高まる。
イランのロウハニ大統領は10日「イラン製ロケットを使い、数週間内に通信衛星2基を打ち上げる」と表明した。このロケットは中東全域を射程に収める弾道ミサイルの可能性が高い。核弾頭の搭載が可能で、シリアのほかの中東諸国に駐留する米軍や、米国の同盟国には大きな脅威になる。