5Gが変える未来 米見本市CES、産業構造変化促す
米ラスベガスで開催中の家電・技術見本市、CESでは、高速通信規格「5G」が2019年の主役となった。現在の通信の100倍もの速度でデータをやりとりできる5Gは今年から実用化し、つながる車への活用などデータにまつわるビジネスに大きな商機を生み出す。産業構造を大きく変える可能性を秘める一方で、情報インフラを巡る米中の覇権争いが本格化する懸念もある。
「5G元年だ」。韓国サムスン電子のキム・ヒョンソク家電部門社長は記者会見でこう宣言した。同社を含め、今年は5Gスマートフォン(スマホ)が世界で30種以上発売される見通し。米国や韓国で商用サービスが始まるからだ。
現行の4Gの通信速度は携帯電話をスマホに進化させた。米アップルや米グーグルなどクラウド技術を活用したIT(情報技術)大手が急成長し、情報の価値が競争力を決める「データ経済」を開いた。5Gはこれをさらに加速させる。
「今後、技術が進化するスピードが一段と速くなるのは確実だ。5Gであらゆることが一変する」。米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズのハンス・ベストバーグ最高経営責任者(CEO)は8日の基調講演で力を込めた。
5Gの時代は、様々な産業が「場所」という制約から開放される。通信の遅延の少なさは、これまでITと縁の薄かった産業の変革も促す。
ゴーグルをかけた外科医が患者をみると脳の断面が映し出され、観察したい患部がピンポイントで表示される――。米スタートアップ企業メディヴィスは、拡張現実(AR)を使った手術システムを開発した。
例えば脳の断面図を実際の腫瘍と重ね合わせながら手術することが可能になる。AR用のゴーグルにはクラウドを通じて画像データを読み込んでいるが、従来の通信速度ではデータ処理に遅延が生じるため、安全性が重要な医療現場では実用が難しかった。
韓国IT企業のネイバーは、2本の腕を持つ「ブレーンレスロボット」(頭脳がないロボット)を披露した。頭脳にあたる高性能のコンピューターを分離し、外部から5Gでリアルタイムに操作する。クラウド上にある外部の頭脳が複数のロボットを同時に制御する仕組みで、製造業のデジタル化に寄与しそうだ。
最も震度が大きいのが自動車産業だ。自動運転は車に積んだカメラやレーダーで集めた膨大な情報をクラウドに送り、人工知能(AI)で分析して車をどう動かすかリアルタイムで遠隔処理する。5GとAIの実用化に乗り遅れた企業は、次世代モビリティーの時代には淘汰されかねない。
1980年代のCESはパソコンが話題の中心だった。90年代に携帯電話が台頭、2000年代半ばにはスマホが主役となった。日本の家電メーカーはスマホの時代以降、CESでの登場頻度が減った。各時代で先端だった技術は米マイクロソフトやグーグルを成長させ、産業の新陳代謝を促した。
一方、産業構造を変えかねない5G技術は国家をも巻き込み始めている。5Gの通信基地局開発では中国の華為技術(ファーウェイ)と北欧のエリクソン、ノキアが先行する。米トランプ政権は新たな社会インフラともいえる5Gを中国企業に押さえられることを強く警戒している。
ファーウェイ製品の締め出しや幹部のカナダでの逮捕の底流には5Gがあるとされる。ようやく離陸を見せた5Gだが、その普及は政治リスクと無縁ではない。
(ラスベガス=佐藤浩実、中西豊紀)
世界最大のテクノロジー見本市「CES」。2024年は1月9日にアメリカ西部ラスベガスで始まり、ソニーやサムスンなどIT関連企業が出展しました。最新ニュースをまとめました。